記事(一部抜粋):2021年8月号掲載

連 載

【平成改め令和考現学】小後遊二

カーボンニュトラルというポエムからの脱却

 菅総理大臣は先のG7サミットで、2035年に1990年比46%、50年にはゼロエミッションというCO2排出削減目標を表出した。一方、経産省は30年の電源構成案を公表、再生可能エネルギー比率を現行の22%から36%に引き上げるという。太陽光発電を大幅に伸ばす計画らしいが、問題は場所だ。日本にはもう土地がない。だから熱海の土石流で問題になったように、あんな急斜面に無理をしてパネルを敷き詰めなければならなかった。太陽光は砂漠のある国では良いが、日本では最も適した山梨県北杜市のようなところでも定格出力の12%くらいだ。それに全電力の10%分も期待するなど妄想としか言いようがない。
 福島第一の事故以来、原子力発電は激減し、現在では3%くらいしか負担できていない。多くは再稼働を諦めて廃炉にしてしまった。住民の反対、裁判所の停止命令など原子炉再稼働の前途は多難だ。建設中だった東通や泊などは工事が中断したままで、完成するかどうかも分からない。にもかかわらず、30年には突如として原子力が日本の全電力の20%を賄うと想定している。これが夢想でなければ、きちんと計算しない役所の怠慢だ。
 世界的にはカーボンニュトラルに向けて水素やアンモニアを従来の火力発電所の石炭やLNGに代わる熱源にする作業が進行している。日本ではいまだ研究段階とはいえ、経産省はこの新しい熱源に30年時点で1%しか期待していない。日本のお家芸と言われる地熱も遅々として進んでいないし、水力に至っては開発され尽くして伸ばす余地がほとんどない。30年の電源構成案を見ると火力が41%ある。その5年後の35年に46%削減という国際公約はまさにポエムだ。
 高速増殖炉が停止しているのでプルサーマルはどうしてもやりたい、など原子力は政治的バイアスが強い。それゆえ政府の原子力行政は信頼できないと住民の原子力アレルギーは強い。電力会社は老朽化した40年炉をさらに延命させようと懸命だが、いっそのこと事故を起こしても自動的に冷温停止できるAP1000のような新しいタイプの原子炉を作ったほうが安いし早い。政府にはそうした判断ができる人材がいない。
 日本が公約しているカーボンニュートラルに至る道は節電しかない。つまり使うエネルギーの量を半減するのだ。そのためには、(1)家庭や工場、ビルなどの電灯をLED化するだけでなく、AIを使って温度管理やON─OFFを自動化する。(2)住居や建物のエネルギー遺漏を最小限にする。日本の家屋は紙とガラスでできているのが多いが、ガラスに遮熱シートを貼るなどできることは多い。夏の一番暑いときに冷房をつけて長時間テレビを見るような習慣も見直すべきだ。(3)電力使用量の一番多いモーターとコンプレッサーの研究を促進する。すでに効率が倍くらいのモノも考案されているが、この分野の開発を優遇する。(4)高圧送電網を日本全体で一元化する。日本は東半分が50 Hz、西半分が60 Hzだが、糸魚川・富士川ラインを越えて電力を自由に融通すれば太陽の力を最大限に利用することができる。いまの210万kWの融通能力を倍にすれば日本全体で電灯、冷房、暖房などに太陽光の力をフルに利用できるので、全体のエネルギー消費量を15%くらい削減できる。
(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】