記事(一部抜粋):2021年8月号掲載

経 済

乗っ取り失敗「北尾SBI」の自業自得

事業計画の根本が崩れかねないSBIファーマ

 資本主義の大原則とは自由競争、つまり弱肉強食である。したがって、二つの企業に抜き差しならない対立が生じると、多くの場合は大が小を呑み込のだ。
 だが、例外のない規則はない。時として予想外の番狂わせが起きて、大企業が一敗地にまみれ、自らの金看板に泥を塗ってしまうことも少なくない。それゆえ、名誉を重んじる老獪な経営者たちは、傲慢な振る舞いを慎んできた面があるのだ。
 今回、窮鼠猫を噛むの喩えのように、格下扱いした中小企業から痛い目に合わされるという結果を招いたのは「SBIホールディングス」(以下SBI)の北尾吉孝代表(70)である。
 若返り効果などで注目を集めているサプリメントの製造工場を強引に手に入れようとして綿密な計画を建てたものの、カウンターパンチで計画が水泡に帰し、業界内で大恥をかいたのだという。
 大手紙の経済記者が経緯を説明する。
「SBIの子会社にSBIファーマという医薬品販売会社があり、こちらも北尾さんが代表取締役を務めています。この会社は、アミノ酸のサプリメント『5─ALA』を主力商品として販売してきました。5─ALAは生命活動の根本物質と言われ、昨年にはコロナウイルスに有効との論文も発表され有望視されています。一方で、大量生産できる工場は静岡県袋井市にしかなく、その工場をめぐって、所有者であるネオファーマジャパン(以下ネオ社)という製薬会社とSBIの間に争いが起きたのです」
 キッカケとなったのは、ネオ社が陥った一時的な資金難である。関連会社のリコール問題などにより運転資金に窮したネオ社が、最大の取引先だったSBIファーマやSBIに支援の相談を持ち掛けたのが昨年11月。
 思いがけずネオ社の内情をつぶさに知ることになった北尾代表の脳裏にどんなアイディアが浮かんだかは定かでないが、その後のプロセスからは、ネオ社が倒産の暁に5─ALAの袋井工場を手に入れるシナリオだったようにも映るのだ。
 経済記者が続ける。
「今年2月頃、SBI側は突然、ネオ社と敵対します。5─ALAの売買契約が果たされていないと主張し、6000万円の供託金を積んで、いきなりネオ社の袋井工場に3億円の仮差押をおこなったのです。さらに、袋井工場に抵当権を付けていた清水銀行の17億円の債権まできれいに買い取ってしまった。いずれもネオ社にとっては寝耳に水の話でした。こうして大口の債権者になったSBIは、次の一手として袋井工場の競売を申し立てた。巷間、北尾代表は剛腕経営者として知られていますが、噂に違わぬ力づくのやり方で、工場を自分のものにしようとしたのです」
 そもそも清水銀行が袋井工場に付けていた抵当権は、ネオ社が工場を購入した際に受けた融資の担保である。地元銀行が特段の理由もないのに、債権を第三者に譲渡することはまず例がない。ましてやその第三者が債務者と敵対的な立場にあればなおさらだが、実は、清水銀行とSBIは1年半前に業務提携しており、清水銀行はSBIから2.5%の出資を受けているという背景事情があった。
 要するに清水銀行は頭の上がらない大株主に忖度して、言われるがままクライアントの債権を売り飛ばしてしまったことになる。しかも、SBIの仮差押えから債権譲渡までの期間はわずか9日間で、その間、清水銀行は一度たりともネオ社に対して話し合いの機会をつくらなかったという。
 これでは、融資を通じて健全な経済の発展に資するという銀行の使命を放棄し、信頼を裏切ったと批判されても仕方ないが、それはともかく、SBIが資金力ではるかに劣るネオ社に対してなりふり構わず攻勢を掛けたことは明らか。この段階でネオ社は絶体絶命の崖っぷちに立たされたと言って過言ではあるまい。
(後略)

 

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