第266代ローマ教皇フランシスコが認めた使徒的勧告「福音の喜び=エヴァンジェリイ・ガウディウム」発布は2013年11月26日。直後に僕が訳出した一節です。「多くの人々は貢献すべき仕事を得られず、挑戦すべき機会も与えられず、その状態から抜け出る事さえ叶わぬ中で排除され・疎外され」、「人間もその存在自体、使用後には即廃棄に至る消費財と見做されている。斯くなる“使い捨て”社会を我々は生み出し、而も急速に蔓延している」。
それは2004年に「未来への提言~コモンズから始まる、信州ルネッサンス革命~」を脱稿下さった経済学者・宇沢弘文氏と“通奏低音”を奏でます。即ち、「社会主義の弊害と資本主義の幻想」を主旋律に、資本主義と社会主義の経済体制を超えて、人間的尊厳と魂の自律、人々の基本的権利が確保される経済体制を希求・実現するメソッド。
爾来、僕は繰り返し述べてきました。「市場万能主義=私益資本主義」の暴走と破綻を事前に回避する“真っ当な勘性の暗黙知”こそ、洋の東西を問わず“考える葦”たる人間としての要諦。「公益=国民益」を忘れた米国型「株主資本主義」と中国型「国家資本主義」。何れも壁に打ち当たる昨今、「消費者資本主義」という新しい理念と概念の下、「利益を求める欲望経済を利用しながらも、社会にとって有用な企業を生み出す流れを起こしていく経済システム」を創出していくべきだと。
2021年6月2日、石油メジャー最大手エクソンモービルの定時株主総会は同社の環境対策に批判的な「物言う株主」が推薦の取締役候補3人を選任。提案した投資会社エンジン・ナンバーワンの保有株式は僅か0.02%。“梃の原理”で大手年金基金や資産運用会社の賛同を得たのです。
カリフォルニア州で垂れ流していた六価クロム溶液に苦しむ市井の人々の為に、孤立無援な「シングル・マザーの法律事務所の事務員」が訴訟を起こし、PG&E=パシフィック・ガス&エレクトリックから3億3300万ドルの賠償金を勝ち取った1993年の実話に基づきジュリア・ロバーツ主演の2000年公開映画「エリン・ブロコビッチ」。「ESG=環境Environment・社会Social・統治Governance」の潮流を体現する象徴的事例です。
マンハッタンの「株主資本主義」と中南海の「国家資本主義」に対抗すべく、「公益資本主義」「納税者資本主義」を唱える向きも散見します。が、前者は公益という「国家益」に、後者も納税者という富める組織や個人の「私益」に変容する蓋然性が高いのです。思えば、乳幼児も年金生活者も非正規雇用者も経営者も宰相も分け隔て無く、誰もが一人の「消費者」。とするなら、この瞬間も全国津々浦々で真っ当に働き・学び・暮らす人々の哀しみや絶望を、喜びや希望へと昇華させてこそ、「救い・護り・創る」21世紀のあるべき社会のあり方。
東芝の公正な企業統治を求める株主提案で第三者委員会が6月10日に提出した報告書。GPIF=年金積立金管理運用独立行政法人CEOから経済産業省参与に横滑りの水野弘道なる御仁が、株主たるハーバード大学の基金に「議決権を行使すると改正外為法の調査対象になる」と圧力を掛けて議決権行使を見送らせた疑惑。その東芝取締役を6月25日付けで退任した加茂正治なる戦略委員会室バイスプレジデントに2020年7月27日の朝食会で「強引にやれば(物言う株主を)外為(改正外国為替法)で捕まえられるんだろ?」と往時の官房長官が嘯いた疑惑。「鈍感力」の誤送船団・記者クラブ。嗚呼、彼我の違いは歴然です。