コロナ禍に伴う渡航制限や挙式の延期・中止によって苦境が続く結婚式場業者に新たな動きが出てきた。その象徴が、私的整理の一種である事業再生ADR(裁判外紛争解決)を申請した業界大手のワタベウェディング(東証1部)である。同社は海外リゾート挙式の草分けだが、瞬く間に64億円の債務超過へ転落。借入金返済のメドも立たないことから、医薬品メーカーで最近は名門ホテルを相次いで買収している興和への身売りに踏み切った。ハウスウェディングのパイオニアとして知られるテイクアンドギヴ・ニーズ(東証1部)も婚礼やレストランのキャンセルで急速に資金繰りが悪化、「一部の取引先への支払延期要請の噂が駆け巡った」(金融関係者)という。その後、メーンバンクのみずほ銀行などからの緊急融資枠が決まったものの、業況回復への道筋は見えてこない。
すでに存続の危機に瀕しているところもある。高級感を売り物にしているA社は取引先への支払遅延が常態化。コロナ融資でかろうじて延命が続いているが、もはや自力再建は難しそう。ウェディング業界の新興勢力として急成長を遂げてきたB社は、債務超過転落によって年明けからスポンサー探しに奔走。こちらも事業再生ADRによる再建を模索しているようだが、交渉の決裂から破産処理も取り沙汰され始めた。
ところで、事業再生ADRについては2019年3月号本欄でも取り上げたが、その後もカーエアコン用コンプレッサーメーカーのサンデンホールディングス(東証1部)や有価証券虚偽記載で摘発された電子部品メーカーのユー・エム・シー・エレクトロニクス(東証1部)などがADRを申請している。ADRは裁判所を介さずに取引銀行と返済猶予や債権放棄などについて交渉、再生計画を策定して合意を得るもの。交渉が不調に終われば破綻のリスクはあるが、一方で上場を維持しつつ再建を進められるメリットがある。そこでコロナ融資で想定以上に延命が続く中小零細企業に先行して、法的整理の回避のためにADRのほか会社分割や債務免除、事業譲渡などあらゆるスキームを駆使した大手・中堅企業による“私的整理ラッシュ”が巻き起こるかもしれない。さらに「政府は中小企業向けの新たな私的整理ガイドラインの策定を検討している」(永田町関係者)ようで、いずれは中小企業でも“私的整理”が増加する公算が大きい。そしてその被害を最も受けるのは、私的整理であっても多額の債権カットを強いられる金融機関である。
(後略)