記事(一部抜粋):2021年5月号掲載

連 載

【平成改め令和考現学】小後遊二

子供じみた「こども庁」創設議論

 総選挙に向けて良い話題がない。菅首相が当初掲げていた政策がいずれもバックファイヤーしているからだ。携帯通話料金値下げは会食問題で藪蛇となり、「人類が新型コロナに打ち克った証としての五輪」は負けた証ばかり出てきてサマにならない。「不妊手術代を保険から」は対象者が限られ選挙用としてはインパクトに欠ける。「カーボンニュートラルを2050年までに達成」も他国並みで話にならない。「自助、共助、公助」にいたっては修身の教科書みたいで選挙用として華がない。「自由で開かれたインド太平洋」は肝心の北朝鮮と中国の差し迫った脅威をどうするのかという議論から逃げるための便利用語だ。「母の恩はありがたい」と同じ範疇の言葉で反対意見は出ないが、外交政策としては通用しないだろう。
 そこで突然登場したのが「こども庁」だ。担当は82歳の二階幹事長でコロナを吹き飛ばす冗談かと思ったが、すでに走り始めている。
 縦割り行政を改めると言って「庁」を作るのはデジタル庁と同じだが、デジタル政策がうまくいっている国や地域では担当大臣が全ての役所に指示命令できる仕掛けになっている。デジタル社会を動かすにはアナログ社会の組織に横串を指さなくてはならないからだ。マレーシアではスーパーコリドー法を作り移行期間中はマハティール首相がその担当大臣を兼任した。台湾のオードリー・タンも各省庁に指示命令を下せるスーパー大臣だ。こども庁は厚労省の保育所、文科省の幼稚園、内閣府の認定こども園の一元化を司るらしいが、別に新たに庁を作らなくても政治判断でやれる話だ。
 日本の少子化の最大の原因は子どもを産む際に障害が多いことで、その最たるものが戸籍だ。いま先進国で生まれる子どもの約50%は結婚していない両親から生まれている。アイスランドに至っては70%だ。OECDの平均は41.5%。50年前が7.4%なので未婚の両親から生まれる子どもがいかに増えているかが分かる。日本はなんと2.3%。未婚の両親に子どもをもうけることへの抵抗、恐怖心、心配があるからだ。生まれた子どもに即国籍を与え、法の下での平等な取り扱いを保証すれば「戸籍に入れる、入れない」の議論もなくなり、非嫡出子のような差別用語もなくなる。籍を入れても入れなくても、子どもを産んでくれたら国として責任を持って育てる。その覚悟があるのかないのか、がいま問われている。
 こども庁の役割が、親が誰かを問わず全ての子どもが同じ権利を持ち、施策の恩恵を受けられることを担保することにあるのなら意味がある。しかし選択的夫婦別姓に反対する議員が半数近くいる与党で、戸籍撤廃の議論などできるのだろうか。
(後略)

 

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