新型コロナウイルスは厄介な複数の変異種が世界で急拡大、恒常的に社会に存在する“エンデミック”の可能性すら指摘され始め、国内では感染の「第4波」が到来している。
それにしても、今回のコロナ対応でわが国はことごとく後手に回ってきた。感染当初の水際対策に始まり、PCR検査体制の拡充やコロナ病床の確保、さらに特別定額給付金や協力金給付の遅れ、タイミングを逸した緊急事態宣言や「GoToトラベル」……とにかく枚挙に暇がない。この問題の本質は「旧態依然の行政システム」、そして「危機対応能力の欠如」にある。飲食店の時短営業に伴う協力金や感染者数の統計、ワクチン接種で露呈したことは、国民の基礎データを国が把握せず、国民と政府が情報で繋がっていない現実であり、「デジタル後進国」の実態が浮き彫りになった。
そして、“有事”に対する危機意識の欠如の象徴がコロナワクチンだ。欧米に大きく遅れてスタートしたワクチン接種だが、累計接種回数は諸外国と比べてケタ違いに少なく、縦割り組織の弊害で接種スケジュールは早くもズレ込んでいる。ワクチン開発では欧米や中国、ロシアなどが相次いで開発に成功するなかで日本は蚊帳の外。国内で初めて治験を始めた大阪大学発のバイオ企業のアンジェスは実用化が来年以降へ大幅に遅れ、塩野義製薬も治験がままならず、年内の投入は難しいという。
日本のワクチン産業がこれほど世界に後れをとっているのは何故か。ワクチンは大規模な臨床試験などで巨額の開発費がかかることから、世界のワクチン市場は米ファイザーなど欧米の巨大製薬メーカー4社で8割近いシェアを占める。かたや日本のワクチンメーカーは大学の研究所の流れを汲む中小メーカーや財団法人など極めて規模が小さく、合従連衡も進んでいない。たとえば、一般財団法人化学及血清療法研究所から分離独立した明治ホールディングス系のKMバイオロジクスの年商は約400億円。バイオベンチャーのIDファーマは親会社のアイロムグループ(東証1部)の年商が連結ベースでも100億円程度にとどまる。アンジェス(マザーズ上場)に至っては前期の売上高は4000万円足らず。設立後20年も赤字が続き、経済誌の「倒産危険度ランキング504社」ではなんと19位にランクされている。こうした脆弱な国内メーカーでは、年売上高5兆円規模で年間7000億円もの研究開発費を投じる世界の巨大メーカーには到底、太刀打ちできない。
過去のワクチンの副反応をめぐる訴訟で国も製薬会社も及び腰になったとはいえ、根底には国家戦略物資でもあるワクチン開発に対する国のあまりにも低い危機意識がある。政府・厚生労働省がワクチンメーカーへ補助金を拠出し続け、定期接種は数社で分け合うという護送船団方式を続けてきた結果、国際競争力を失ってしまったのだ。
(後略)