(前略)
どんな政策にもメリットとデメリットが背中合わせに存在しており、むろんエネルギー問題も同様である。ある自民党のベテラン議員がいう。
「地球温暖化の影響が誰にでもわかる形で見えるようになった今、二酸化炭素を出さずに電力を作り出す太陽光発電や風力発電、地熱発電といった再生可能エネルギーはエコの代名詞になり、政治家は誰も反対の立場を表明できない。しかし、言うは易く行うは難しで、太陽光、地熱、風力のどれにも相応の短所があるのです」
例えば太陽光発電は夜に発電できず、昼間でも日照時間に左右されるため、安定的な供給が見込めない。当然、発電不能の時のためにバックアップの発電所を用意しておく必要がある。極端な話、100を発電するために200の発電施設が必要になるわけだ。
また、地熱発電は一見、火山の多い日本に向いているようにみえる。ところが21世紀に入ってから20年経っても、中規模と大規模な設備が2つしか建設されていない。地熱の発電量はいまだに国内の全発電量の0.3%に満たない。ベテラン議員が続ける。
「見ることのできない地中を丁寧に調査したうえで、発電量のポテンシャルが判明し、発電所建設の可否を判断すわるけです。10年かけて探査して、最終的にダメとなるようなケースも出てくる。完成すれば維持コストが高くないという利点もありますが、開発に膨大な時間とコストがかかるので見合わないのです」
最後は風力発電だが、国土の狭い日本では洋上発電に期待がかかる。海の上は風の状態が陸地よりもよく、ヨーロッパでは2012年以降、盛んに洋上の風車が建設され、発電量が3倍以上になったという。
ヨーロッパの海は沿岸から100㎞にわたって水深が数十メートルと浅く、比較的コストの低い着床式の風車を建設するのに向いている。一方、日本の場合はあっという間に水深が深くなり、相模湾で1000m、駿河湾の最深部の水深は2500mにも達する。当然、着床式の風車の建設は不可能なため、海に「浮体式水車」を浮かべるしかない。そうなると技術的、コスト的にハードルは飛躍的に高くなってしまう。
「やはり原子力発電を抜きにして、日本のエネルギー政策を語るのは難しいのです。しかし、実際問題として原発がほとんど動いていない現実がある。再稼働しようと東京電力が躍起になった柏崎刈羽原発はテロ対策の不備という人為的なミスを犯して、当面、再稼働できなくなった。日本原電の東海第二原発も運転差し止めを求めた住民訴訟の一審で敗訴してこちらも稼働できず。国民の持っている原発アレルギーは10年を経ていまだ根強く、この状況では火力発電に頼りながら、再生可能エネルギーの設備を増やしていくしか方法が見えない。その一方で、国全体の電力需要は今後も増加の一途をたどることがわかっている。カーボンニュートラルの大合唱が始まって暖房が電力に切り替り、EV(電気自動車)が一気に増えると、電力需要は10〜20%も増える可能性がある。突発的な電力需要に発電が追いつかなくなるリスクが生じます」(同)
実際、今年の冬、1月8日と12日には寒波のために供給が逼迫し、火力発電全体の設備利用率は9割に達し、電力会社が冷や冷やしたことがあった。こんな大停電の危機を避けるためにはバックアップの火力発電所を増設しなければならず、そうなると二酸化炭素排出を抑えているのか増やしているのか、わけのわからない状況が待っている。
加えて、火力の燃料をほぼ輸入に頼る日本は、今まで以上に生殺与奪の権を諸外国に握られてしまう。さらにこの未来図では、不安定な再生可能エネルギーを支えるために過剰設備が不可欠となった結果、電気代が割高になることがほぼ確実視されている。例えば中国は、原発を100基も建設中だが、電力の単価で比べると、日本国内の製造現場はもはや国際的な競争力を持ち得なくなるという。
(後略)