記事(一部抜粋):2021年4月号掲載

経 済

ついに攻勢に転じた日本郵政

楽天と資本提携、「上乗せ規制」も緩和へ

 楽天と日本郵政が3月12日、資本提携すると発表した。楽天が3月下旬に実施する第三者割当増資のうち8.32%にあたる約1500億円を日本郵政が引き受けて第4位の株主になる。楽天の増資には中国のネット大手、騰訊控股(テンセント)の子会社も3.65%(約657億円)、米ウォルマートが0.92%(約166億円)引き受ける予定だ。
(中略)
 両社が急激に距離を縮め資本提携に至った背景には、経営の行き詰まりもあってともに強力なパートナーを必要としていたことがある。
 楽天は新規参入した携帯電話事業で競合他社の攻勢に晒され、基地局の整備などへの投資負担が重くのしかかっていた。
 日本郵政は日本郵便の恒常的な経営難に加え、かんぽ生命保険の不正販売などの不祥事で厳しい経営状況に立たされていた。
 両社ともに「どこかと手を携えて攻めの経営に転じたい」との思いがあったと思われる。
 結節点にいるのは菅義偉首相だろう。楽天の三木谷浩史社長、日本郵政の増田社長はともに菅首相に近い。
 小池百合子氏に敗れたものの2010年夏の東京都知事選に増田氏を担ぎ出したのは菅氏で、二人はともに第一次安倍政権時に総務相を務めている。増田氏は菅氏が官房長官時代に打ち出した「地方創生」の生みの親の一人でもある。そして日本郵政社長に増田氏を充てたのも“菅人事”だ。
 昨年10月5日にかんぽ生命保険が営業自粛を解除した直後の記者会見で、増田社長は「ウミは今年中に出し切り、次の経営計画に臨みたい」と抱負を語っていた。数字的な裏づけを伴う詳細な次期中期経営計画は5月に発表される予定だが、期間を従来の3年から5年に延長し、より中長期的な視野に立った成長戦略を打ち出す方針だ。
 次期中計では、デジタル技術を使った郵便局の新サービスの創出、不動産事業の強化、地方銀行や自治体からの事務受託などが軸になる見通しだ。
 デジタル技術の活用では、2万4000局のリアルネットワークとデジタル技術の融合を図るほか、郵便や物流のデータをベースにしたプラットフォームの構築を目指す。いうまでもなく、その脈絡にあるのが日本郵便と楽天の物流・資本提携だ。
 不動産事業の強化では、「保有している郵便局、社宅などの不動産の価値を最大化していく」(増田社長)のが基本的な考えだが、新たな物流施設など所有不動産以外への投資も視野に入っている。戦略会社として18年4月に設立した日本郵政不動産は前年度も赤字だが、そのテコ入れの意味合いもある。
 ただし、これらの戦略はいわば新中計のフロント部分であり、新中計の最大の焦点は「資本政策」にある。その資本政策で注目されるのが、かんぽ生命保険による3000億円規模の自社株買い。持株会社である日本郵政の出資比率を現在の64%から50%以下に引き下げるという奇策だ。
(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】