(前略)
接待問題はNTTやNHKにまで広がったが、NHK以外の大手マスコミにとって対岸の火事とは言えない。自社のことを調べるのは簡単で、マスコミは自社幹部と総務省官僚との会食、接待を「スクープ」できるはずだが、大手マスコミからそうした記事が出ることはない。
マスコミ界では常識だが、前述したように総務省記者クラブには「波取り記者」と呼ばれる記事を書かない記者がいる。総務省から電波の割り当てをもらう、つまり「波を取る」のが役目だからそう呼ばれている。要するに、総務省人脈をつくって電波行政についてロビイングしたり、本社の幹部と役人の会合をアテンドしたりすることが仕事で、菅首相の長男とやっていることは同じだ。しかし、マスコミは総務省の接待問題を報じても、波取り記者の存在は隠している。
(中略)
なぜ利害関係者が官僚を接待するかというと、官僚には許認可、補助金などの裁量権があるからだ。
一般的な図式は以下のとおりだ。
①利害関係者は現役官僚を接待し、見返り(許認可、補助金など)を期待する。
②現役官僚は利害関係者に見返り(許認可、補助金など)を与え、同時に官僚OBの天下りの受け入れを求める。
③利害関係者は現役官僚の要求を飲み、官僚OBの天下りを受け入れる。
④官僚OBは現役官僚の人事に介入する。
こうして現役官僚は、利害関係者からの①接待と官僚OBから④人事で優遇されるというメリットを受ける。現実はここまで単純なものではないが、おおよそのメカニズムは似たようなものだ。
こうした構図があるがゆえに、①接待を国家公務員倫理法、②許認可・補助金を手続きの透明性、③天下りを国家公務員法(天下り規制)、④人事を内閣人事局で、それぞれ対応しようとしたわけだ。
要するに、内閣人事局ができるまで、官僚人事は官僚OBが事実上牛耳り、政治家は一切口出しができなかった。現役官僚は事務次官僚になるために官僚OBに「忖度」していたわけだ。
そこで、内閣人事局では法文上の任命権者である政治家に法文通りの役割を果たしてもらうことにした。官僚OBと政治家を比較すれば、政治家のほうが選挙を経ているだけまだマシともいえる。ちなみに日本の各省事務次官は生え抜き官僚ばかりで、先進国の中では珍しいほど政治家が人事をおこなえない。日本以外の先進国では、各省事務次官の一定割合は、外部登用・政治任用なので、政治家・大臣が人事権を行使できるのが一般的だ。日本は、内閣人事局が創設されても、先進国の中で政治家が官僚人事を最もできにくい国であることに変わりはない。
実は、利害関係者、現役官僚、官僚OBの3者の関係を見ると、①接待の要素はそれほど重要ではない。①接待なしでも、利害関係者は②許認可・補助金を得て、③天下りを受け入れ、官僚OBが現役官僚の④人事に介入することで、“三方よし”の関係が成り立つ。その意味で、業者と官僚は①接待がなくても特段困ることはない。
現役官僚にとってキモはあくまで④人事である。だから内閣人事局を批判する。④人事でメリットを受けたいというのが官僚の本音なのだ。
マスコミはそれを垂れ流している。なお、①接待、②許認可、③天下り、④人事という関係は、総務省と大手マスコミの間でもおおむね成り立っている。
もっとも、マスコミ関連への③天下りはそれほど直接的ではない。というかほとんど見られない。ただ、総務官僚が金融機関に、財務官僚がマスコミに天下る「クロス現象」があるのは興味深いところだ。
(後略)