記事(一部抜粋):2021年3月号掲載

社会・文化

時代遅れな日本の単独親権制度

【狙われるシルバー世代】山岡俊介

 上川陽子法相は2月10日、父母の離婚に伴う子供の養育のあり方に関する法制度の見直しを法制審議会に諮問した。離婚後も両親双方が養育に携わる「共同親権」についても議論されることになる。
 わが国は、両親が離婚した場合、子供の親権を父母のどちらかが持つ「単独親権」制度を取っている。したがって、これまで法制審議会で現行法に反する共同親権が検討されたことはなかった。
 しかし欧米など先進国といわれる国では、離婚後どちらかの親に子供が引き取られるにしても、離れて暮らす親も特別の事情がない限り共同で親権を持ち、子供と面会し、養育費を負担する共同親権制度を採用している。わが国同様、単独親権制度をとっているのはインド、トルコ、パキスタンぐらいだ。
 もっとも、法制審議会で今回、共同親権が検討されるのは、単に世界の潮流に合わせるためというわけではない。
 わが国では両親が離婚した場合、母親が子供を引き取る割合が8割にのぼる。その母子世帯(子供が20歳以下で未婚)は約123万ある(2016年度)が、その半数が貧困世帯である。単独親権制度の下では、親権を持たない父親に強制的に養育費を支払わせる法律がなく、実際、父親が離婚時には養育費の支払いを約束しながら、それを実行しないケースが少なくない。しかし共同親権制度になれば、別居の父親に支払い義務が生じる。
 念のために付け加えると、先進諸国の共同親権制度が子供を引き取らない親にも子供との面会を認めているのは、子供と会いたいという親の心情に配慮してのことではない。両親の仲が悪く離婚しても、子供はどちらの親にも会いたいもの。そして、離婚後も会えることが子供の健全な育成に繋がると考えられているから。つまり、あくまで子供のことを思ってのことなのだ。
 欧州のある研究では、父親がいない家庭で育った子供は精神的な問題を抱えることが多いことが明らかになっている。父親がいない家庭で育った子供は、両親がそろった家庭で育った子供と比較して精神的トラブルをより多く抱え、学業成績がより悪く、社会に出てからの地位もより低く、結婚しても離婚しやすいなどの傾向が認められたという。母親がいない家庭の子供も同様に、両親がそろった家庭の子供に比べ精神的問題を抱える傾向があるという。
 わが国でも数年前から、共同親権制度を採用すべきとの声が子供に会えなくなった親を中心に大きくなり、単独親権制度は違憲だとして提訴する動きが広がりを見せている。
 昨年11月には、離婚などで子供と面会交流できなくなったのは基本的人権の侵害で違憲だとして、男女十数人が国に一人当たり10万円の損害賠償を求めて東京地裁に集団提訴した。原告のなかには子供もおり、これは初めてのケースだ。
(中略)
 ここにきて共同親権制度を求める声が高まっているのは、現状の単独親権制度が実際に多くの弊害を生んでいるからだ。その最たるものが「連れ去ったほうが親権を取れる」という現実だ。
 具体的な例を上げよう。
 鹿児島県内で歯科医をしているK氏には小学6年生の長男と小4の長女がいる。妻は専業主婦。
(後略)

 

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