今回のコロナ・ショックと2008年のリーマン・ショックという2つのリスクイベントを比較すると、リーマンは金融危機と輸出の急減によって製造業を始めとする大手企業を直撃したが、中小企業や飲食、観光への影響は限定的だった。当時は新興デベロッパーのアーバンコーポレイションや事業者金融大手のSFCG(旧商工ファンド)など金融や不動産セクターで50社を超える上場企業の倒産ラッシュが巻き起こり、2010年には日本航空(JAL)が会社更生法に踏み切っている。
今回は大手も減収や赤字を強いられて有利子負債も急膨張してはいるものの、ダメージは大半が許容範囲内とみられる。一方で外食や小売、航空などサービス業の需要は一瞬にして消失、業種や地域を問わず、中小零細が徹底的に痛めつけられている。メディアも連日、廃業や倒産の危機に晒されている飲食店や中小企業の惨状を繰り返し伝えている。
ところが、“倒産続出”のイメージとは裏腹に、実は企業倒産はパッタリと鳴りを潜めているのだ。2020年の倒産件数は全国で7809件と歴史的な低水準を記録。1000件突破と騒がれた「新型コロナウイルス関連倒産」も実態はコロナ前から業績が悪化していた零細業者ばかりで、年明け後の1月も過去最低水準と不気味なほどの静けさが続いている。
不気味な静けさの要因は何といっても無利子・無担保や信用保証協会の保証付きの「コロナ関連融資」に尽きる。政府系と民間金融機関で40兆円を超えたコロナ融資が、予想を遥かに上回る倒産抑止効果を発揮したのだ。さらに破綻だけは避けたいと企業間取引を極度に縮小させ、デフォルトリスクを回避していることも見逃せない。
もちろん倒産が減ること自体、悪いことではない。ただし、構造的な問題を放置したまま、いつまでも救済策を続ける弊害を無視することはできない。ましてやその減少が自律的な要因でなければなおさらである。リーマン後の中小企業金融円滑化法によって倒産は長らく封印されてきた。その結果、水面下ではゾンビ企業が増え続け、新陳代謝のメカニズムが崩れて低生産性が常態化、わが国の大きなアキレス腱となってしまった。2019年にようやく名実ともに金融円滑化法が終了して正常化へ向かったと思ったら、今度はコロナ禍によってわずか1年でフリーズ状態に逆戻り、再び倒産は抑制されているわけだ。
ただ、今回も延命措置の域を出ることはなく金融円滑化法同様、倒産は先送りされていると見るべきである。そもそも多くの中小零細企業にとってコロナ融資はあくまで止血効果でしかなく、「短期的な倒産回避の効果はあっても、事業の持続可能性を保証するものではない」(金融関係者)のだ。
(後略)