米国のトランプ大統領が議会襲撃を扇動したとして2回目の弾劾裁判を受けることになった。世の中が混沌としてくるとアジテーションで民衆を惑わすのは今に始まったことではない。実際、今回の議会襲撃ではヒトラーの先例を持ち出す報道も散見された。第一次世界大戦の賠償などいやなことはやらない、ドイツ民族が全てに勝る、富を奪う敵はユダヤ民族だ、などを米国ファーストで2016年の選挙戦を勝ち上がったトランプに重ねてみると類似点は多い。しかしツイッターで政敵を攻撃するトランプのやり方は21世紀型で、イラクやアフガニスタンからの撤兵を進めるなど攻撃より口撃でアメリカの戦費を削った。
一方、中国と北朝鮮は軍事費を増やす19世紀型の国家運営を加速している。実際には途上国の軍備増強・銃口は自国民に向けられているケースが多く、北朝鮮はまさにそのマンガ的事例だが、中国は自国民には保安部隊が対応、他国には人民解放軍が対応している。保安予算が長年軍事予算より多かったのは共産党がいかに民衆蜂起を恐れているかを物語っている。しかし、習近平になってからは様相が一変、2035年に名実共に世界一の覇権国となることを目標に、あらゆる面で計画を着々と進めるようになった。特に2期10年という憲法で定められた総書記の任期を撤廃してからは「皇帝」としての振る舞いが加速している。
経済面では一帯一路とアジア・インフラ投資銀行など、遅れてきた中国の新植民地政策を着々と進め、28年にはGDPで世界トップに躍り出る可能性が出てきた。論文・特許やAI・5Gなどハイテク・科学分野でも質量共に米国と肩を並べるレベルに達し、多数の21世紀型企業を輩出、EUや日本を大きく引き離してしまった。金融面でもキャッシュレス決済やEC分野で世界トップに躍り出ている。米国がイランやロシアなどの制裁に使ってきたSWIFTのような国際決済システムを回避するためにデジタル人民元を22年の北京冬期オリンピックまでに導入する計画も発表した。また「中国標準2035」を掲げて世界標準や規格を作るための組織に積極的に人材を派遣し指導力をつけている。軍事面でも「2位」では意味がないという認識を軍人の間に共有し、宇宙軍やサイバー部隊を含めて世界トップに向かって「計画的に」突き進んでいる。
習近平は香港について「一国二制度は守るが重要なのは一国の部分である」と述べている。同時に、建国の父を毛沢東ではなく孫文とする軌道修正をしている。中国共産党は、対日抗戦に勝利して人民を解放したのは自分たちだとして土地を所有し、人民への支配権を正当化してきた。しかし毛沢東率いる共産党は終戦時には長江上流に逃避しており、カイロやダンバートン・オークス会議に出席したのは国民党の蒋介石で、国連では台湾が常任理事国になっていた。従って対日抗戦で勝利した功績を独り占めするためには台湾を統一し「一国」を達成しなくてはならない。習近平の頭の中は大体そのような構図になっているので、他国が香港や台湾問題に口を出す度に「内政干渉だ!」とはねつけてきた。チベットや新疆ウイグル問題で他国が何と言おうと漢化戦略を推し進めるのは(ドイツ民族の優位を謳ったヒトラーに似た)漢民族による純化戦略である。
(後略)