記事(一部抜粋):2021年1月号掲載

連 載

【田中康夫の新ニッポン論】

『ヘイトの楽園』

「サントリーのCMに起用されているタレントはどういうわけかほぼ全員がコリアン系の日本人です。そのためネットではチョントリーと揶揄されているようです。DHCは起用タレントをはじめ、すべてが純粋な日本企業です」。
「会員数1525万人突破」が躍るDHC公式オンラインショップHPで現在も閲覧可能な件の文章は、「2020年11月 株式会社ディーエイチシー代表取締役会長・CEO吉田嘉明」と明記。
 1972年に委託翻訳業務を開始。大学翻訳センターの頭文字を社名としたDHC。直営店・コンビニ・ドラッグストア等、全国7万軒以上が商品を扱う売上高1000億円の非上場企業です。創業経営者は、帰化人を通じて文禄・慶長の役以前から作陶技術が伝播した朝鮮半島との交易港、唐津焼で知られる唐津市出身の御仁。
 共同通信社は12月16日に報道。が、「専門家」の「ヘイトスピーチそのもの」コメントを紹介する一方、「競合他社」と曖昧な表記に留め、見出しも「ヘイト発言か」と半身姿勢。SNS上で即刻「炎上」します。すると「反戦反核反差別の立場で取材・執筆」とアカウント紹介文で“リキる”「共同通信ヘイト問題取材班」が「忖度」そのものな「釈明」ツイートで再炎上。
「『DHC会長、ヘイト発言か』の『か』にご批判をいただきました。DHCに取材していますが、会長が書いたのかどうか確認が取れないため、こう書いています。記事本文でこの文章を差別だと認定している通り、ヘイトかどうか分からない『か』ではありません。ご意見を受け今後精進します」。
 総合的・俯瞰的に2020年を振り返るのに相応しき“ご飯論法”そのもの。「ヘイト&フェイク満載な『真相深入り!虎ノ門ニュース』のDHCテレビって共同通信会館にあるんですよね あ~、そうですか」。市井の臣が鋭い突っ込みを入れたのも宜なる哉。
 一般社団法人共同通信社で編集主幹、統合編集本部長も兼務の水谷亨社長は「忖度」すべき取引先の優先順位を間違えています。日本経済団体連合会審議員会副議長、内閣府経済財政諮問会議議員の新浪剛史サントリーホールディングス代表取締役社長が被った事実無根な風評被害よりも「一介」の店子の面子を慮ったのですから。
 而も驚く勿れ、政治・経済・国際・社会・文化の「濃密な情報」を得るべく小生が健気に律儀に開設時から月額2万2000円も投じ続ける共同通信e─WISE会員制サイトはDHC妄言事件を無視。「忖度」という名の黙殺は「誤送船団・記者クラブ」加盟TV各局とて同様。朝日・毎日そして東京がサントリーの企業名を記してDHCの暴挙を断じた一方、読売、日経、産経は沈黙。大きく報じたBBCを始めとする国外メディアとの彼我の違いを又しても痛感します。
「仙台遷都など阿呆な事を考えてる人が居るそうやけど…東北は熊襲の産地。文化程度も極めて低い」。首都機能移転問題に関して1988年2月、大阪商工会議所会頭の佐治敬三サントリー社長がTBS系列「JNN報道特集」で語った「差別発言」は、東北地方を中心に不買運動へと発展。新聞もTVもサントリー「メセナ」活動との落差を大々的に報じ、彼自ら東北各県にお詫び行脚を行います。
 処女作刊行直後、最初に対談した経済人が佐治氏でした。後にフランス・ボルドー地方へご一緒した際、文化芸術を語っていた筈の自分を深く自省する痛恨の出来事だったと述懐されたのを思い出します。別称「ホラのモンTV」常連出演者の書名『カエルの楽園』ならぬ『ヘイトの楽園』を、政治も報道も国民も糾しもしない嗚呼令和ニッポンよ。

 

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