第一生命保険の山口県のベテラン女性元営業社員が、顧客に対し、「私は30%で運用できる『特別枠』を持っている」と架空の資産運用話を持ちかけ、2002年から今年にかけて総額19億円以上を不正に集めていたことが大きく報道されている。
同社はすでに女性元営業社員を告発しており、山口県警は詐欺容疑で捜査しているが、いくらベテランといっても、多数の顧客から19億円以上もの資金を集め、かつ20年近くも発覚しなかったのは、顧客の大切な資金を預かる保険業務に従事していたことによる「信用」が大きくものをいったのだろうと容易に想像できる。
そこで思い出していただきたいのが、この連載185回(2020年3月号)の「保険勧誘のかたわら投資詐欺 悪徳ファイナンシャルプランナー」で取り上げた元保険営業マン、柏木達哉被告(38)のことだ。
前回の記事では、同被告が今年2月、茨城県警に不動産投資名目などで計2325万円を違法に集めたとして、出資法違反(預り金禁止)で逮捕されたこと、直接の逮捕容疑以外にも多額のカネを不正に集めていたことなどを指摘した。
実際、柏木被告はその後、詐欺で3度逮捕されている。それと共に被害額も膨れ上がり、数十億円にのぼると見られる。しかも、被害者のなかには老後資金をすっかり騙し取られ悲惨な老後を送らざるを得なくなった高齢者も少なくない。
柏木被告は保険代理店の営業マンで、保険会社の社員ではなかった。しかし、ファイナルシャルプランナー(FP)という資格を持ち、顧客の相談に乗りながら、複数の保険会社の商品を販売していたのだから、被害者が彼を信用した理由は、第一生命の女性元営業社員と同じといっていいだろう。
筆者は連載182回(19年12月号)で、被害者約1500名、被害総額300億円ともいわれるタイ鉄鉱石鉱山への投資詐欺話について報じ、このタイ鉄鉱石鉱山への勧誘に柏木被告が深く関与していたことも明らかにしたが、11月11日に栃木県警が詐欺容疑で3度目の逮捕(出資法違反、前の詐欺はすでに起訴済み)に踏み切った案件が、まさにこのタイ鉱山への投資話だった。
また今年4月、被害者3名が共同で柏木被告らに約8200万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴していたことがわかったが、その被告のなかには複数の保険代理店も含まれている。
連載185回で書いたように、被害者は柏木被告だけでなく、保険代理店や保険会社の責任も求めたが、保険会社からは「保険契約自体は適法。それ以外の虚偽の投資話は当社とは無関係」と逃げられるなか、保険代理店を共同被告としている点は画期的といえるだろう。
そこで、その訴状や被害者原告の証言などから、改めて柏木被告の巧妙かつ悪質な手口、彼の背後にある巨大な詐欺ネットワーク、そしてどういう根拠で保険代理店も共同被告としたのか見てみたい。
まずは、3人の原告(被害者)はいかにして柏木被告と知り合ったのか。
Tさん(女性57)は、ネット検索で「保険マンモス」という無料の保険相談サイトを見つけて電話したところ、そのサイトと提携する保険代理店「FPパートナー」(東京都文京区)にFPとして当時所属していた柏木被告を紹介された。
(以下略)