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菅政権が中小企業の再編に乗り出すと盛んに報じられている。菅首相の10月26日の所信表明では特に明示されなかったものの、新政権発足直後に、首相は梶山弘志経済産業相に「中小企業の再編促進」を検討するよう指示している。中小企業再編という命題が出てきた背景や実現性、メリットとデメリットはどうか。
経済財政諮問会議の下に設けられた成長戦略会議では、中小企業再編をめぐって元ゴールドマンサックスのアナリストで小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン委員と、日本商工会議所会頭の三村明夫委員との間で意見が異なっていると報じられている。
菅政権で中小企業再編が浮上してきたのは、菅首相のブレーンの一人で再編論の極論である「淘汰」を説くアトキンソン氏の影響があるのだろう。もっとも、菅首相は一方だけではく、他方の意見を必ず聞いており、そのうえで判断するというスタイルだ。今回新たに作られた成長戦略会議はまさにその舞台になっている。
中小企業再編といっても、「淘汰」を政策目的にすることは考えにくい。雇用の確保がやはり政府目標の中では最上位になるはずだからだ。したがって、雇用確保のために弱い中小企業を強化するというのはあり得る。その意味で、政策課題としては「中小企業の淘汰」ではなく、「中小企業の生産性をいかに高めるか」という議論になるだろう。
しばしば聞かれる「生産性の低い企業は淘汰すればいい」という主張は、いわゆる「清算主義」の考え方だ。清算主義で打ち勝った個別企業の生産性は確かに高まるが、社会全体としてみれば失業が増え、全体のパフォーマンスを悪くさせる可能性がある。しかも、現状ではコロナ禍により雇用に大きな影響が出ているので、失業コストを無視することはできない。
そもそも日本は中小企業政策の対象となる中小企業の数が多い。中小企業庁のデータによれば、2016年で非一次産業の企業数は358.9万社ある。そのうち99.7%の357.8万社が中小企業だ。膨大な数だが、それでも09年の420.1万社、12年385.3万社、14年の380.9万社と減少傾向にある。つまり、これまでも中小企業は自然淘汰されてきているわけで、今後も中小企業数は一定程度の自然減があるだろう。
もちろん、中小企業の実態には多様性があり、それを十把一絡げにして、画一的に方向性を出すような政策を立案するのはそもそも不可能だろう。
実際に中小企業政策を実行に移すには、中小企業基本法などの法改正が必要になるが、現実に問題になっている後継者不足による事業承継が困難な状況を容易にして再編を促進することなどが中心課題になり、積極的な淘汰促進にはならないだろう。
結果として、中小企業政策はある程度は中小企業の再編に資すると思うが、中小企業の自然減の過程のなかで、より強い中小企業をつくり出せるかどうかが政策のポイントになろう。
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