記事(一部抜粋):2020年11月号掲載

連 載

【コバセツの視点】小林節

都知事を国による任命制にしろという竹中平蔵教授の珍論

 小泉・竹中内閣、安倍内閣、菅内閣と、政権のトップ・ブレインの位置にい続ける竹中平蔵教授が、月刊文藝春秋11月号のインタビューで、東京都を国の直轄地にして都知事を国による任命制(国の官僚ポスト)にしろと主張している。
 その主張は、大要、次のとおりである。①今年、コロナ禍対策で政府が消極的であった時に、国民の不満が高まる中、都は国に先回りして休業要請、感染拡大防止協力金の支給等を行ったが、都は、群を抜いた税収と資産があり、同教授の古里・和歌山とは大違いである。②両者を「地方自治法」という一つの法律の中で同列に扱うのは無理がある。このままでは自治体格差が広がるばかりである。③東京都を、米国の首都ワシントンDC(コロンビア特別区)のように政府が(直接の)管轄権を持つ区域にして、都知事は政府が任命するようにすべきである。④自治体は地域住民が安心して生活を送れるという点が第一である。⑤東京は日本の戦略基地という意味を持ち、世界有数の国際金融センターにしたい。
 しかし、全てが的外れである。①今年、コロナ禍に対して、様々な思惑から国が消極的であった時に、都が実施した対策に一定の効果があったのは事実である。政治、経済、文化の中心地で人口が密集している東京と、農林水産業と観光業が中心で、人口で都の十分の一弱、コロナ感染者で都の百分の一以下の和歌山を同列に論じる必要はない。②憲法は92条で、地方自治の内容は「地方自治の本旨」に基づいて法律で定めると規定している。その「本旨」とは、各地方の特性に応じて行政サーヴィスの内容は各自治体が決めて実施するという意味だとされている。そして、地方自治法1条は(この法律は)「地方自治の本旨に基づいて定め」られていると明記している。だから、地方自治法の下で現実に東京と和歌山の行政サーヴィスが異なることは自然で合憲で合法である。③米国は、「州」という名の50の国家の連合体である。だから、連邦政府はどこの州にも属さない土地を確保してそこに政府を置いて中立性を担保しているのである。それでもワシントンDCの市長(区長)は住民による公選である。④私は、DC、ロンドン、パリ、モスクワ、北京等、世界の首都を訪ねたことがあるが、東京は、他国と比較して十分に安心して暮らせる街である。⑤東京を世界有数の金融センターにしたいと考えるのは竹中教授の自由であるが、それは何よりも日本経済の実力が引き寄せる世界からの需要が決めることであろう。しかも、金融センターであるニューヨークもロンドンも伝統ある「自治」体であり国の直轄地ではない。
 以上、竹中教授の主張は、その根拠として挙げられている事実は全てでたらめである。
 ところで、ワシントンDCについて付言しておきたい。DCは177㎢(東京都心程度)の狭い土地であるために、そこには主に公的機関だけが集中している。その上で、そこで働く人々の住宅、子の教育、リクリエーション等は、隣接するメリーランド州とバージニア州が担っており、その一市(区)二州で「首都圏」の機能を果たしている。つまり、それで日本の東京都の役割を担っている。そして、もちろんその一市二州はそこの住民達が統治する独立した自治体である。
 自分で規制改革した労働市場の大手企業の役員に天下った竹中教授の提言には要注意である。

 

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