記事(一部抜粋):2020年11月号掲載

経 済

スガノミクスが迫る中小企業改革

【情報源】

「悪しき前例主義、既得権益の打破」を掲げる菅義偉首相の政治的アプローチは、「自民党をぶっ壊す」をスローガンにした小泉純一郎元首相に類似している。一方で、温和で冷静沈着な外見とは裏腹に強かさや大胆さを持ち合わせ、時には強権的な激しささえ醸し出す。ただ、政権の実績づくりを急ぐあまり頑なにブレない姿勢を押し通そうとすると墓穴を掘りかねない。コロナ禍で格差社会が進行するなかにあって、「国民のために働く内閣」を標榜する新首相は弱者を救う救世主なのか、はたまた狡猾なリアリストなのか。
 安倍晋三前首相は経済政策を憲法改正や外交のためのツールとして位置づけていたが、菅首相は改憲への関心は薄く、経済政策に特化する公算が大きい。そうであれば、そこには必ず新たな利権が生まれる。実際、鳴り物入りのデジタル庁をめぐる総務省、経済産業省の主導権争いなど霞が関の権力闘争が熾烈を極め、経済界では規制改革などスガノミクスによってもたらされる様々な業界の利権に魑魅魍魎が群がり始めた。
 そもそも、菅首相の力の源泉は大物運輸族だった故小比木彦三郎衆院議員の秘書、その後の横浜市議時代から培ってきた特定業界の利権である。たとえば「小比木氏から引き継いだ東京急行や小田急、京浜急行などの私鉄各社に人脈を築き、私鉄工事に絡んだゼネコン利権を巧みに操った」(自民党関係者)という。一方で義理、人情を重んじるという古典的な政治手法であり、“叩き上げ”といわれる所以でもある。
 菅首相の経済ブレーンには元総務相の竹中平蔵氏、財務省出身の高橋洋一嘉悦大学教授などリフレ派、市場競争主義者がズラリと顔を並べる。要は、競争原理の加速で産業や社会の構造改革を進めるということだ。そうしたなか、「中小企業基本法」の見直しと「最低賃金の引き上げ」による“中小企業潰し”の憶測が大きな波紋を呼んでいる。
 中小企業基本法では税優遇などのために意図的に中小企業にとどまるケースがあり、救済措置が中小企業の成長を阻害しているとの指摘があった。そこで中小企業の定義を見直して税優遇や補助金を縮小、さらに最低賃金の引き上げによって低生産で体力に乏しい中小企業を淘汰し、生産性を向上させようという狙いだ。この政策の提唱者は、菅首相のブレーンとして成長戦略会議の議員に指名されたゴールドマン・サックス出身のデービッド・アトキンソン氏。同氏はかねてからわが国の潜在成長率や生産性の低迷の根源は多過ぎる中小企業であり、手厚い中小保護が効率化を阻んでいる元凶と主張してきた。それだけに、中小企業の経営改革と新陳代謝の促進のためにもゾンビ企業の淘汰を加速させる政策が想定される。
(後略)

 

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