菅首相は安倍内閣の政策を踏襲するということだが、そうは問屋が卸さない。長く続いたアベノミクスの限界が一気に露呈するからだ。
企業業績はかなり落ち込んでいるのに株価は高い。1980年代の後半は株、土地、絵画などが高騰したが、今は株以外に上がっているものがない。生産緑地指定の縛りがなくなる2022年以降は大都市周辺で土地の供給が一気に増えるので不動産も期待できない。絵画やゴルフ場の会員権も低迷したままだ。
個人金融資産が1800兆円もあるが、ほとんどが貯蓄奨励時代に育った高齢者のものだから消費に回らない。この人たちは「いざという時」のために貯めているので、死ぬ瞬間が一番キャッシュリッチという因果な人生を送っている。金利が1%高ければ18兆円もの収入になるので、この金を有効利用するには高金利政策しかない。しかし亀井静香のモラトリアム以来、不振企業の救済を優先させてきたので今さら高金利にしたら即死する企業が続出する。景気刺激策と雇用・産業政策が対立したまま放置されてきたのがアベクロの8年間である。
問題はコロナだ。インバウンド3000万人は一気に蒸発してしまった。旅行業、旅館業、飲食業などのダメージも大きい。航空機やエアラインもほとんどの国で倒産し、公的資金で救済するしかない。3密を避けると基本的に顧客の入りはよくて半減、ペンシルビルに密集している居酒屋などは物理的にやっていけない。外で飲み食いするという習慣が後退してしまった影響も無視できない。サービス業の多くは非正規雇用で支えられているので、失業者を正確に把握し支援するのは難しい。正規雇用のエアラインなども外国では大規模なリストラをやっている。日本では持ちこたえているが、最後は民主党時代のJAL救済みたいなことになるのだろう。
コロナが炙り出したもう一つの問題は日本のIT化の遅れだ。政府は個人をネットで把握していないことが露呈した。住民登録がマイナンバーの基礎となっているが、政府側からメッセージやカネを送ることができなかった。菅内閣は目玉政策としてデジタル庁をつくると宣言しているが、担当の大臣はIT系企業の経営者と親交があっても、別にシステム設計や構想が練れるわけではない。「黙れ、ばばあ!」とツイッターに書き込める程度でも、議員の中ではITに明るいことになるらしい。
一方、民間企業はテレワークなどで大きく変化した。もともと日本企業が遅れていた業務系のIT化に一気に火がついた。人手を介してやっていた経理・業務処理、契約書類、購買業務、在庫管理、税務申告などもハンコやサインを不要とする方向に変わっている。AIなどを使った業務系のアプリでは省力化、無人化も同時進行だ。日本企業の生産性が低いのは主として間接業務の自動化の遅れに原因があったが、そこが一気に進む兆しである。
それはいいことなのだが、裏から見ればホワイトカラーの大量失業に直結している。
(後略)