記事(一部抜粋):2020年9月号掲載

社会・文化

被害が急増「情報商材」詐欺 初摘発も「一罰百戒」にならず

【狙われるシルバー世代】山岡俊介

「情報商材」を使った詐欺の被害が増えている。
 情報商材とは「ある目的を達成するためのノウハウ」を解説したネット上の動画やDVDなどを指す。ほとんどが実利的なもので、いかにすれば儲かるか、成功するか、異性にもてるかといった内容が大半だ。
 以前は競馬やパチンコの必勝法の類が多かったが、SNSの普及で近年は株、仮想通貨(デジタル暗号)、先物取引、FXなどインターネット上で決裁させるケースが大半で、その被害が急増している。
 少し古いが国民生活センターのデータによると、この情報商材に関する相談は2013年度は872件だったが、18年度は8662件と5年で10倍も増えている。
 もっとも、詐欺を立件するハードルが非常に高いためか、この情報商材詐欺は長らく摘発を免れてきた。
 初摘発と思われるのが昨年9月、大阪府警生活安全課が5人を詐欺容疑で逮捕した「GIFTプロジェクト」という案件だった(翌10月に主犯1人を追加逮捕)。
 被害に遭った人数と被害総額は、少なくとも全国のべ約6300人から約9億2000万円と見られるが、実際に罪に問われたのはそのごく一部、5人分の計約53万円だけだ。
 すべてを罪に問うのは物理的に不可能で、この手の事件では一部だけしか罪に問われないのは仕方ないことなのだが、筆者が驚いたのはその5人の被害者の年齢。まだ世間をよく知らない若者が欲と安易さから手を出したのだろうと思っていたが、実際は大阪府、京都府などに住む40~60代の男女だった。なぜ、十分に分別があるはずの中高年が被害に遭ったのか。
 情報商材を使った悪徳商法は、以前は単純に儲かるノウハウを教えるというものだった。
 それが次第に過激化し、たとえば2017年後半に登場したKAZMAX(吉澤和真)の「お金は拾うものプロジェクト」は、動画で「“落ちている”お金を拾うだけなので、あなたが行う作業は何もありません。ゴミ拾いより簡単」とアピール、「1日の期待利益は2億6000万円」「上場企業推薦」「元本保証」「数千%の利益も保証します」などと謳っていた。
 これだけなら、あまりに話がうま過ぎるし、現実離れしているので、GIFTプロジェクトの被害に遭った中高年は、話を持ちかけられても手を出さなかったのではないだろうか。
 実はGIFTプロジェクトのケースも、「基本的に何もしなくていい」「元本保証」「必ず儲かる」というフレーズは同じだ。ただ、動画で解説するのは前者が30代前半のKAZMAX自身だったのに対し、GIFTプロジェクトでは65歳の加藤浩太郎(偽名)という男性。FXなどの投資で80億円儲けた自分(加藤)が、その必勝ノウハウでFX投資を代行し、「毎月10万円をギフト(プレゼント)する」という触れ込みだった。そして、自分がこのギフトをおこなうのは「困っている人を助けたいから」と善意を強調していた。また動画に出演した投資家を名乗る数人は「どん底だったが、加藤さんに救われた」と感謝の言葉を口にしていた。
 KAZMAXに「1日の期待利益2億6000万」と言われるより、65歳の加藤浩太郎に「1カ月10万円をギフトする」と言われたほうが現実味があるような気がしてくる。「本当に月10万円収入が増えれば生活が楽になる」と共感する、ぎりぎりの生活をしている中高年は少なくないはずだ。
 また、「情報商材でノウハウを学んでも、それを理解して儲ける人がいる一方、理解不足で失敗する人も多い(そもそも必勝ノウハウなどないから理解度は関係ないが)。だから、理解しているプロの自分が投資を代行してあげる」という説明も魅力的だったようだ
(後略)

 

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