記事(一部抜粋):2020年9月号掲載

経 済

ウィズコロナ関連株は玉石混淆

秋には悪材料が出て二番底の懸念も

「コロナの第2波のまっただ中」と日本感染症学会の理事長が講演の中で述べたのは、8月19日のことである。翌日の朝日新聞は一面で大きくこれを報じたのだが、この日の日経平均株価は、前日比1%のごく小幅な下げにとどまり、改めて兜町の住人たちがコロナ観測に関してかなり楽観的であることを印象づけた。
 だが、その一方で東証の株価がほぼ天井付近にあって、やや過熱気味だという意見が散見されるようになってすでに2カ月が経過している。
 経済誌記者が日経平均の現状を分析する。
「コロナで1万6000円台まで暴落した日経平均が、2万2000円から2万3000円のレンジに入ったのは6月の月初からです。底値は3月半ばでしたから、およそ2カ月半で2万2000円まで戻したわけです。底値を基準と考えれば30%以上の急上昇となった計算で、過熱感が生じるのは当然でしょう。その時点からさらに2カ月半が経過して、目下は調整局面。ただ、上に向かって大きく動くという予想はちょっとしづらい。当面はこのレンジの範囲内で動くと想定されています」
 現在の株価が、日本経済の実態から乖離していて、買われすぎだという声は日を追うごとに大きくなっているものの、そんな日経平均を支えているのは、莫大な資金力を誇る日銀と、圧倒的に在宅時間が増えた個人投資家たち。さらに、一役買っているのが「ウィズコロナ」というキーワードだという。
 さる大手証券会社のベテラン証券マンによれば、抗ウイルス製品の開発を手がける製薬会社など誰でも気がつくもの以外に、コロナ禍ゆえ取り沙汰されている銘柄は枚挙にいとまがない。
「ウィズコロナ関連株の代表例は、例えば巣ごもり関連として食品やゲーム、在宅ワーク関連として通信やオンライン関連などの銘柄を指します。その中にはソニーなどの大手も含まれますが、中心は中・小型株。これらウィズコロナ関連株が予想以上に値上がりしたことが、緊急事態宣言以降の日経平均のV字回復に寄与したわけです。ただし、個別の銘柄を吟味していくと、確かにコロナ禍が何らかの形で幸いして業績が伸びている企業がある一方、中には、ウィズコロナの雰囲気ばかりが先行し、業績とはあまり関係なく買われてしまったパターンもないわけではありません」
 少し具体的に見てみると、コロナ禍で業績が確かに良くなった企業は例えば、スーパーなどの小売業界に多い。「業務用スーパー」を展開する「神戸物産」(東証1部)は、業務スーパーのフランチャイズチェーンを率いているが、全国一斉の休校や在宅ワークが増えたことによって業績がはっきり伸びたケースだ。株価は3月の暴落時にいったん3500円を割り込んだものの、8月下旬には倍の7000円弱にまで達している。
 似たようなケースで小売業大手のイオンも、株価がV字回復している銘柄の一つだ。2倍までには至っていないが、最安値をつけた3月と比べて、現在の株価は1.5倍程度。日経平均の戻り率を大きく上回っている。しかし、業績の中身を検討すると良い材料よりも悪い材料のほうが目立っている。特に衣料品の不調や休業店舗の人件費補償などが響いており、来年2月の決算では対前年比で営業利益が7割以上も減ってしまうと予想されている。
「それでもイオン株はこの1年半の間でもっとも高くなっています。当然、現在のイオンの株価はかなり過熱した状態にあるわけで、よほどの理由がない限りこれ以上、買い進めるわけにはいかない。このように、日本経済新聞や、株式関連のメディアが囃したてているウィズコロナ関連株の中には、業績の伴っているケースとそうでないケースの2パターンがあるわけです」(同)
 論より証拠、8月中旬に日本経済新聞は「在宅特需 意外な成長企業」という特集記事を掲載した。記事は冒頭で、《在宅中心の生活様式が広がってきたことで、消費に新たな需要が生まれている(中略)大幅な増益や上方修正も目立ち、関連銘柄は株価も好調だ(中略)思わぬ成長銘柄が相次ぐ可能性がある》として、生活衛生、調理、アウトドア、余暇など4分野の企業9社を取り上げていた。
 調理の分野で名前の挙がったのはスパイス最大手の「エスビー食品」(東証2部)や「ブルドックソース」(東証2部)など。両社とも著しく外食が減り、自宅での食事が増えた「新しい生活スタイル」のメリットを享受したはずで、エスビー食品は3月にいったん3800円を切った株価が5000円を超えるまでに急騰した。
「エスビー食品に関するアナリストたちの今期の業績予想は、売上高こそ減るものの、利益率の高い家庭用スパイスが好調なため、営業利益は前期に比べて25%も増えるというものでした。それを加味すれば、上値余地はまだあるかもしれません。しかし、同じように家庭内需要の恩恵をこうむったブルドックソースの方は、一方で業務用ソースが大幅減で、今期の営業利益の予想はこの10年で3番目に悪い数字。株価も年初来の最安値から15%も上がっていません」(同)
 華々しく取り上げられた銘柄への疑問符はこれだけではなかった。シマノ(東証1部)について記事では、《電車移動による感染リスクを避けようと自転車に乗る人が増えたことで、自転車部品を扱うシマノは昨年末費3割高だ》とした。
「確かにその通りなんですが、3月の大暴落時の最安値を基準に計算すると、現在の株価は80%近い上昇です。シマノはもともと借金が非常に少ない優良会社ではあるものの、来期の予想では営業利益は減りそうだし、いつ値崩れが始まってもおかしくないと思います。同じ記事に載ったキャンプ用品の大手スノーピーク(東証1部)にも首をひねりました。こちらの株価は3月のおよそ3倍にまで跳ね上がっています。8月に発表した通期の業績予想が想定外に良かったこともあるのですが、キャンプ需要のかきいれどきだった4月、5月に多くの店舗が休業していたはずなのに、こんなに良い業績予想はおかしいのではないかと、疑いを持ったアナリストもいたほどです」(同)
 かくして持て囃されているウィズコロナ関連銘柄の実態は玉石混交……。株のプロならば空売りの仕込みどきだと逆張りしてもおかしくない状況なのだ。
(後略)

 

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