記事(一部抜粋):2020年7月号掲載

経 済

「青汁王子」も怒った意図的乱脈経営

回収見込みのない先へ融資、子会社を300円で売却……

 このところのコロナ禍で毀誉褒貶相半ばすることになった世界保健機関(WHO)はスイスのジュネーブが本拠地である。巨大な本部ビル入り口に建つ壁面には、一本の杖に巻き付く蛇のシンボルマークが掲げられており、このデザインのモチーフは、ギリシア神話で死者すら蘇らせる名医とされたアスクレピオスが持つ杖なのだという。
 この由緒あるアスクレピオスの名を冠した企業が、東京都渋谷区に登記されている。2014年7月に設立された「アスクレピオス製薬」だ。この会社はいわゆる製薬メーカーではなく、健康食品やダイエットサプリなどの通信販売を手掛ける資本金1000万円の中小企業だが、わずか5年で業績を急拡大させ、昨年6月の決算では売上高70億円、純利益約3億円という優良企業に成長した。
 しかし、その後、40%の大株主である代表取締役の意図的な乱脈経営で、巨額の資金流出が相次ぎ、あっという間に企業として瀕死の状態にされてしまったという。
「この1年で失われた企業価値は、約40億円に相当します」と話すのは、フルーツ青汁の大ヒットで「青汁王子」として名を馳せた三崎優太氏(31)。彼はアスクレピオス製薬のもう一人の大株主で60%の株を保有している。過半数を超える株主で、いわばアスク製薬のオーナーの立場にあったのだが、パートナーだった代表取締役に裏切られ、内部から企業の資産価値を棄損されたのだ。
 浮き沈みの激しいベンチャーの世界で生きてきた三崎氏が説明する。
「アスク製薬の社長が突然、私のことを株主ではないと言いだし、臨時株主総会を開くことも拒否しました。そうやって時間稼ぎをされているうちに、彼が9割以上の資金や従業員を流出させたのです」
 三崎氏が、アスク製薬の代表である越山晃次氏と知り合ったのは、15年の2月、ある電子商取引のセミナーでのことだった。アスク製薬を創業してまもない越山氏は、三崎氏よりも年上であったものの、経営が軌道に乗らずに困っていたという。そのため、経営者としての経験では先輩に当たる三崎氏にその後、何かと相談を持ちかけるようになったそうだ。
 そして翌年、三崎氏は越山社長から、アスク製薬の6割の株を3000万円で購入してもらえないかという打診を受ける。かねてより、フルーツ青汁の会社だけでなく、複数の電子商取引の企業を経営していた三崎氏はこれに応じて、アスク製薬をグループ企業の一角に加えたのである。
 その効果は想像を超えて良かった。Eコマースという独特の業界で経験豊富な三崎氏のアドバイスが功を奏したため、アスク製薬はダイエットサプリのヒット商品も生み出し、トントン拍子に業績を伸ばしていった。一方、三崎氏も手掛けた「フルーツ青汁」が大ブームとなり、グループ企業としての業績もうなぎのぼり……。しかし、好事魔多し。
 絶頂期だった昨年2月、東京地検が三崎氏を脱税容疑で逮捕、一カ月ほどで保釈されたものの、昨年9月に懲役2年執行猶予4年の判決を受けたのはご存知の通りだ。まさに人生最大の危機に見舞われていた三崎氏を横目に、この頃からアスク製薬の越山社長が不可思議な動向を見せるようになったという。
「まず、株主総会にも図ることなく、無断で自分の月給を183万円から583万円に400万円も引き上げたのです。さらに、越山社長は回収の見込みもないまま、アスク製薬からあっちに1億、こっちに2億という具合に、数億円規模の資金を情報商材関連の会社や、経営危機に陥っている医療法人などに次々と融資しました。実際に医療法人はこの融資の直後に民事再生手続きに入っていて、もはや貸付金の回収は困難です」(三崎氏)
 この手法の狙いについて、企業犯罪に詳しいあるルポライターはこう解説する。
「何か理由があって会社の資産を他所に移すときによくあるやり方です。あちこちのグレーな会社に融資して、例えば、融資金額の5〜7割程度のキックバックを受け取るパターンです。融資先が複数になれば、それだけ事態は複雑化して回収は難しくなりますし、特に融資先が倒産してしまうようなケースでは、権利関係が入り乱れているため、後から回収することはほぼ不可能。結果、融資した資金は回収不能となって、経理上、どこかに消えてしまうのです」
(後略)

 

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