記事(一部抜粋):2020年6月号掲載

経 済

ANAに忍び寄る経営危機の足音

脳裏をよぎる10年前のJAL破綻

(前略)
 休業補償に後手後手となった政府の対応の悪さも相まって、すでに零細、中小企業のコロナ廃業、コロナ倒産は枚挙に遑がないが、いまやレナウンだけでなく上場企業の倒産が懸念されるひどい経済状況が始まっているのだ。
「上場企業に関しては悲観的な要素ばかりではないのですが……」と話すのはある経済誌のライター。
「リモートワークとか電子契約、製薬などコロナ禍が逆にチャンスとなる分野も少なからずあって、現在の株価は割安の水準にあります。今後、こういった銘柄の株価は押し目、押し目で買われていくはず。一方で観光と旅行、運輸といったインバウンド関連業界の株価はまだ下がりきっていないし、状況によっては経営危機に至る可能性が否定できないのです」
 ほぼ壊滅状態のインバウンドが回復するには、ワクチン開発が成功したとしても数年が必要だというのが、業界の大方の見るところだ。そんな厳しい経済環境のなかで、特に今後の推移が注視されているのが、巨大な装置産業である航空業界だという。
「飛行機会社は、新しい型の飛行機を買い続けなければならないため、借入金が膨らむ傾向があります。加えて整備や人件費という固定費が大きくなる。一方で、9.11やリーマンショックなどが起きると、業績にダイレクトに響いてしまうことがわかっています。今回は、世界中の国が入国制限をおこない、一時的な鎖国状態になりました。これまで誰も想像もしたことのないような状況となり、果たして、日本航空や全日空がこの事態にどこまで耐えられるのかが懸念されているわけです」(同)
 5月19日、唐突に経営破綻したタイ航空は、航空会社がどれだけコロナ禍に対して脆いかを証明する一つの実例だろう。タイ航空はタイ政府が51%出資していたため、国営企業にありがちな高コスト体質で、2019年12月期まで3期連続の最終赤字だった。このところ健全な黒字経営が続いていたJALやANAと一概に比較はできないが、飛行機を飛ばせば赤字、飛ばさなければなお赤字という基本構造は同じである。
 国交省を担当した経験のあるベテラン記者が心配する。
「日本航空と全日空を株価でみれば、全日空に分があります。JALは正月に3400円だったものがほぼ半値の1850円。一方のANAは正月の3600円が5月下旬に63%の2300円程度で、これまでのところ2000円すら割り込まずに踏んばっています」
 しかし、4月末の決算発表で公表された財務諸表の内容に踏み込むと、健全性という観点では、株価とは逆の実態が浮かび上がってくるのだという。
「売り上げはANAが19年3月期に達成した2兆円に一歩届かず、1兆9700億円、JALは1兆4000億円でした。ところが営業利益や経常利益、純利益を見ると、いずれもJALがANAを大きく上回っており、ANAの経営の燃費の悪さが浮き彫りになるのです。実はこの数年、ANAは業務の拡大路線を続け、例えば去年もオーストラリアのパースや南インドへの新路線を就航、エアバスやボーイングの新型機も積極的に購入しています。採算が取れるかどうかわからないけれども、やってみようと博打を打った最悪のタイミングでコロナ禍に見舞われてしまった印象です」(同)
 確かに売上規模はほぼ2兆円と、JALを6000億円近く引き離しているにもかかわらず、ANAの営業利益は608億円で、JALの1006億円の6割。ちょうど1年前の決算では全日空の営業利益は1650億円に達していたから、20年3月期は1000億円以上のマイナスになった計算だ。
 さらに経費を差し引いた純利益に至ってはわずか259億円で、純利益率は1.3%という水準に落ち込んでいる(JALは純利益534億円、純利益率4%)。
 もちろんこうなった主な原因は1月から3月末までの第4四半期の業績が極めて悪かったためで、全日空の場合、この期間の売上高3424億円に対して営業費用が4049億円、差し引き625億円の巨額赤字になっている。
「一方、JALの第4四半期は売上高2803億円に営業費用が2998億円。総計195億円の営業赤字と、赤字幅を全日空の3分の1に抑えています。ご存じのようにコロナの影響は1〜3月よりも、4月以降のほうがはるかに深刻ですから、4〜6月の全日空の第1四半期の決算の赤字が、625億円を上回る可能性はかなり高いでしょう。加えて7月以降、第2波の懸念などで旅客数が採算ラインに戻らなければ、第2四半期、第3四半期と営業赤字が続き、来年4月、純利益ベースで数百億円単位の赤字が出ても不思議ではありません」(同)
 日本航空も全日空も今回は期末の配当を見送り、コロナ禍の影響を見通せないとして、21年3月期の業績予測も未発表だが、少なくとも両者の株価の逆転はいつ起きても不思議ではなさそうだ。
 加えて全日空に関しては、気になるのが有利子負債の急増だ。
(後略)

 

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