今国会に提案された検察庁法改正法案が思わぬ展開を見せた。改正に反対する声が広がり、今国会での成立が見送られただけでなく、その後、渦中の黒川弘務東京高検検事長のスキャンダルが噴出、辞任に追い込まれたのだ。
(中略)
今回の検察庁問題は、黒川氏を検事総長にしたい官邸の政治介入という側面が確かにあったが、別の見方をすれば検察内部の人事抗争でもあった。
優秀な人材が揃っていると言われる司法修習35期は、黒川氏が辞任するまでは、黒川氏と林真琴名古屋高検検事長しか残っていなかった。両派が、熾烈に競っていたのは衆目の一致するところだ。法務省内も二派にわかれ、検察OBも対立し、マスコミもどちらかを推していた。例えば『朝日』は林氏、『産経』は黒川氏だった。
その人事抗争を、検察庁法改正という名目で展開していたのが実態だろう。それが証拠に、検察OBが出てきて検察庁法改正反対と言い出した。
そうこうしているうちに、コロナ問題のなか、検察庁法改正案を含む国家公務員法改正案が継続審議となった。安倍政権はあっさりとちゃぶ台返しをしたのだ。こうしたミソをつけた法案は廃案にするはずで、案の定、政府・与党は今国会で廃案とする方向で検討に入った。
ただし、前述したように国家公務員の定年を延長しないと、「年金難民」がいずれ出かねない。
検察官の場合は60歳程度で「肩たたき」があり、公証人として2000万円程度を保証されるポストが提供される。一般国民から見たら恵まれすぎた老後があるわけだが、国家公務員全体を見ると、そうした特権的な環境にいる者は少ない。
ちなみに公証人法では、公証人資格を得られるのは「試験合格者」と「法曹経験者」とされているが。ただし、公証人試験はこれまで実施されたことがないため、公証人は検察官OBが独占しているのが実態だ。このような検察官の恵まれた老後環境が特権的に維持されていることは留意しておきたい。
年金は、早く死んだ者の保険料を原資として、長生きした者への保険金とする制度であり、高齢化がここまで進んでしまったとあっては、年金支給開始年令の引き上げは不可避だ。それを考慮すれば、国家公務員、地方公務員の定年延長の話も、民間会社と同様いずれ避けて通れない。
結局、検察庁法改正案は国家公務員法改正案も含めて廃案の方向だが、これにダメを押す形になったのが「賭け麻雀」スキャンダルだった。
『週刊文春』が5月20日、黒川氏が新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言の発令下、賭け麻雀をしていた疑いがあると報じた。黒川氏は5月1日、産経新聞の記者の自宅で、同記者、別の産経記者、朝日新聞社員1人と共に約6時間半滞在し、翌日未明まで麻雀をした後、産経記者が用意したハイヤーで帰宅したという。さらに13日にも、同じ記者の自宅で賭け麻雀をしたという。
黒川氏の世代には、麻雀を日常的に楽しんでいた人が少なくない。かつては各省の記者クラブには麻雀卓が常設されており、麻雀好きな官僚が記者たちと卓を囲むのは日常茶飯事だった。
検察が捜査にあたる事件では、事件が起きる度に検察幹部からマスコミに情報がリークされるが、今回は、それがどのように流されるのかが白日の下に晒された。週刊文春では実名が出ていない産経記者も、署名記事があるのですぐに特定できる。二人ともゴリゴリの「黒川派」だ。朝日新聞は社としては林派だが、一応ヘッジのために黒川番もつけているということだろう。
それが、産経と朝日の対応の違いになって表れてもいる。産経は「(記者の自宅に招いたのは)取材の一環」というスタンスなのに対し、朝日は文春以上に結構詳しく内容を報道している。
(後略)