記事(一部抜粋):2020年4月号掲載

社会・文化

社是が泣く「沢井製薬」の塩対応

レスリング有力選手の訴えに「身も蓋もない反論」

 東京オリンピックの開催を危ぶむ声が聞かれて久しい。腹芸一つで政界を泳いだ森喜朗・組織委員会会長は延期や中止を語らないものの、すでに延期の線で調整に入っているという情報は信憑性が高いのだ。気が気でないのはアスリートたちで、万一、延期となればその時期によらず代表選考のやり直しは必至である。代表枠を獲得していた選手は茫然と天を仰ぎ、次点に泣いた選手は次こそはと虎視眈々、代表枠を狙うことになる。
 例えば、レスリング男子でも再起の機会を待つ選手は少なくあるまい。その1人がグレコローマン77キロ級の阪部創選手(26)だ。2018年6月に全日本選抜レスリング選手権で準優勝の成績を収めた後、悪夢のようなドーピング騒動に巻き込まれ、濡れ衣を晴らすまで半年間も資格停止。結局、実力を出し切れずに代表枠を逃したという。
 彼の場合、今後、戦う相手はレスリングのライバルたちだけではない。目下、自分をドーピングの罠にはめたジェネリック薬品大手の沢井製薬と法廷闘争の真っ只中なのである。
 阪部選手が沢井製薬に対し、6000万円余りの損害賠償請求を起こしたのは昨年10月のことだが、まずはそこに至るまでの事情を簡単にご説明しよう。
 訴状によれば、18年6月の決勝戦後に提出した尿検体から禁止物質である「アセタゾラミド」が検出され、彼は、試合やチーム練習への参加を許されなくなった。しかし、禁止薬物の摂取について全く身に覚えがなかった阪部選手は、試合前の2〜3日に口にしたプロテインやサプリメントなどを片端からアメリカの検査機関に郵送し、自己負担で分析を依頼したのである。
 当初、これという結果はなかなか出なかったが、最後の最後に試合当日に服用した沢井製薬のジェネリック胃腸薬が犯人だと判明したという。アメリカの分析機関が、この胃腸薬1包から37マイクログラム(1マイクログラムは百万分の1グラム)のアセタゾラミドを検出したと報告してきたからだ。
 スポーツ紙のデスクが解説する。
「体重別のレスリング選手が試合前に減量するのは当たり前ですから、阪部選手が胃腸薬を飲むのはごく自然な話です。むろん、この胃腸薬の成分にドーピングの禁止物質は全く入っていないはずでした。ところが微量のアセタゾラミドが含まれていたという信じられない話だったのです。実は、その後の調査で、沢井製薬が原薬の製造を委託していたインドの製薬会社の製造ラインにアセタゾラミドが残留していた結果の事故だということがわかっています。その証拠に同じロットの胃腸薬には、やはり微量のアセタゾラミドが混入していたそうです」
 つまり阪部選手に責められるべき過失は全くなかったが、彼が払わねばならなかった代償は決して小さいものではなかった。国体や全日本選手権など重要な大会への出場が許されず、強化合宿への参加も許されなかった。さらに試合だけでなく、まともな練習の機会すら奪われた。
 沢井製薬の胃腸薬の件が判明した後に、資格停止処分は取り消されたものの、試合勘は簡単には戻らない。その結果、本来の実力に比べ不本意な成績に終わり、五輪出場のチャンスは失われたのである。運が悪かったの一言では片付けられないような気の毒な話だが、そんな経緯で彼は提訴に踏み切ったのだ。
 しかし、沢井製薬側はアスリートの運命など歯牙にもかけない対応だったという。
 東京地裁を担当する司法記者がいう。
「沢井製薬側の準備書面などを見ると、胃腸薬にアセタゾラミドが混入したことは認めているものの、その他の責任は全くないという木でハナをくくったような主張です。例えば、混入は極めて微量であるゆえに、毒に薬にもならない量だから副作用のリスクもなく、その意味で安全だというのです」
 少なくともドーピング検査に引っかかり、その結果、毒にも薬にもならないどころか、阪部選手の人生を大きく変えてしまったのだが、その辺り、沢井製薬側の準備書面から抜粋してみよう。問題の胃腸薬についてこう説明している。
《アスリートのための特別仕様のものとして開発・設計・製造したというような事情がないために(中略)ドーピング検査に違反しないようにするといったようなことは決して考慮されない》
《全く不純物が混入していない医薬品を製造することは現代の科学技術をもってしても不可能である》
《製造物責任法における「欠陥」は、合理的な一般人(中略)を基準として判断されるべきものであって、アンチ・ドーピング規定による規律の対象であるトップアスリートのように、一般消費者と異質な、社会的に極めて限定された集団への効果に着目して欠陥の判断をなすべきではない》
 司法記者がつけ加える。
「その主張を噛み砕くと、ごくごくわずかな混入だし、一般人のための薬だからドーピング検査なんて想定していないので、責任はないという趣旨でしょう。普通の製薬会社なら内心そう思っても、表だって主張するのが憚られるような内容です」
 そこには、売上高1800億円を誇る上場企業、沢井製薬に大株主として君臨する澤井一族の影響が見てとれるという。
(後略)

 

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