記事(一部抜粋):2020年3月号掲載

連 載

【田中康夫の新ニッポン論】

医系技官という宿痾

 天皇誕生日祝賀の儀から戻った安倍晋三首相も17分間出席した新型コロナウイルス感染症対策本部会合で日本政府は、「基本的な対処方針」策定に向けて翌2月24日の専門家会議開催を決定。因みにCOVID─19国内感染者の初確認は1月15日。
 加藤勝信厚生労働大臣は会議後、「拡大」は敢えて用いず「国内発生の早期。正に移行期にある」と言葉遊び。他方でクルーズ船から帰宅した下船者に、今後は公共交通機関の利用自粛を各地の保健所を通じて要請。健康確認も電話等で毎日実施。“やってる感”満載な「対処方針」を発表しました。奇しくも同時間帯に韓国の文在寅大統領は、感染危機レベルを4段階で最高の「深刻」に引き上げると発表しています。
 遡って20日の会見では菅義偉官房長官が「①2月5日以降の感染拡大防止の措置が機能している ②現在ではほぼ発症者の発生がない ③隔離が有効に行われていると確認された」と表明。
 同盟国アメリカに留まらず、カナダ、香港、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、イギリス、イタリア、フランス、イスラエル、台湾等もチャーター機で自国民の“奪還”に動き、北方領土問題で日本を袖にし続けるウラジミール・プーチン大統領のロシアに至っては、「日本の対応は場当たり的でカオスだ」と外務省報道官が“喝破”。「先手先手」の日本のウイルス対策を、他国は「後手後手」と捉えていたのです。
 菅長官は内心、忸怩たる思いかも知れません。斯くも的外れな3項目を記したメモを何故、内閣官房の事務方は手渡したのだと。それは偏に、厚労行政を牛耳る「医系技官」が、臨床医学や基礎医学の“脱落者”にも拘らず、否、であればこそ屈折した怨恨の心智で“机上の空論”を振り翳す蓋然性が高いからなのです。
 2017年7月に事務次官級ポストとして新設された初代医務技監の鈴木康弘氏は慶應義塾大学。大臣官房総括審議官(国際担当)の佐原康之氏は金沢大学。危機管理、科学技術・イノベーション、国際調整、がん対策、国立高度専門医療研究センター担当と幹部名簿に明記されている筆頭審議官の大坪寛子氏は東京慈恵会医科大学。何れも医学部卒業です。
「#コネクト大坪」とSNS上で話題沸騰の彼女は2008年、厚労省へ入省後に医薬食品局血液対策課で勤務する前は、国立感染症研究所血液・安全性研究部の研究員でした。その彼女の古巣の予算は10年間で20億円削減。新規採用も滞り、退職者分は不補充状態。昨年4月に参議院内閣委員会で問題視されています。「iPS細胞予算は私の一存次第」の高言も宜なる哉。和泉洋人首相補佐官が室長を兼務する内閣官房・医療戦略室次長でもある彼女は当初、新型肺炎のスポークスパーソンを欣喜雀躍として務めました。
 が、好事魔多し。カジノ船「ダイヤモンド・プリンセス号」に3711人もの乗客・乗員を“幽閉”し続けるのは新型コロナをシャーレで“培養”するが如し、と懸念した微生物感染症学の岩田健太郎神戸大学教授が乗船。果たせる哉、「全体最適」の大本営発表どころか現場の「部分最適」すら出来ていないじゃないか、と全世界に発信。すると、不眠不休の奮闘をディスるのかと島国ニッポンの嘗ての同僚からも同調圧力。
 呵々。不甲斐なき記者クラブが官製発表をコピペする風土に於いては、彼が「ミクロの決死隊」で乗り込まねば船内は可視化されぬ儘だったのです。放射能と同じく無色・透明・無臭で人間の五官が察知し得ない厄介な存在の病原体=ウイルス。「3.11」に続いて「不思議の国ニッポン」が炙り出されました。

 

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