記事(一部抜粋):2020年1月号掲載

社会・文化

無実だった日大アメフト部監督

悪質タックル騒動に踊ったメディアの責任

 年も改まって旧年中の話は恐縮だが、昨年、流行語大賞に輝いたのは「ONE TEAM」というフレーズだった。ご存知、ラグビーW杯でベスト8に輝いた日本代表チームのスローガンである。師走の12日、大手新聞の朝刊は揃って、代表選手たちが丸の内でおこなったパレードについて大きく報じていたから、その写真をご記憶の方もいるかもしれない。
 一方この日、ラグビーに負けず劣らず激しいタックルを売り物とするもう一つのスポーツ、「アメリカンフットボール」に関する小さな記事が新聞各紙に載ったことに気付いた方は少ないはずだ。その記事は概要、裁判で争っていた日本大学とアメフト部の前監督、内田正人氏(64)の間で和解が成立したことを伝えるものだったが、朝毎読のどの新聞でも目立たない第三社会面にごく控えめに載っていたにすぎなかったのである。だが実は、この短い原稿は「悪質タックル」という言葉を2018年の流行語にした「日大アメフト騒動」の言わば掉尾を飾る記事だったのだ。同時に、あの騒動に狂奔したメディアに報道責任を問う最後通牒の意味を持っていたのだという。
 大手新聞社を退職した元論説委員が嘆息する。
「いま思い返せば日大タックル騒動は、どの新聞社にとっても苦い記憶になっているはずです。何カ月間も、内田監督のことを、選手を恐怖で支配する悪の権化のように書いて叩き続けましたが、結局、警察の捜査によって、彼はあのタックルに全く関与していないことがハッキリした。ところが、いまさら手の平を返して内田監督の名誉回復を図るわけにもいかず、テレビ、新聞などの全メディアがその辺りのことについて、頬っかむりを決め込んでしまったのです」
 広い意味なら誤報の範疇に含まれてもおかしくない報道を、日本中のメディアが一方的に続けたのはなかなか稀有なケースだ。その原因の一つは、よく聞くメディアスクラムというフレーズでは言い尽くせない過剰な同調圧力が起きていたためだという。
(中略)
 過熱するワイドショーを新聞や週刊誌が追っていき、騒動がますます大きくなったタイミングで、加害者である宮川選手の記者会見がおこなわれた。
 前出の論説委員が振り返る。
「この会見の時、宮川選手は悲壮な表情で『監督やコーチから、試合に出たいなら、相手のQBを潰せ、と指示された』と訴えました。20歳そこそこの彼が、大勢の記者たちの目の前で、試合に出たい一心だったと懺悔したわけです。ここから、彼を悲劇のヒーローとし、逆に監督とコーチを悪玉とする絶対的な構図が生まれ、全メディアが同調するようになってしまった。でも、本来ならば誰か冷静な新聞記者が、一言、宮川君に尋ねるべきでした。『コーチから、ホイッスルが鳴った後に、後ろからQBにタックルをして怪我をさせろ、と指示されたのか』とね。そう具体的に聞いたならば、おそらく彼は、具体的には指示されていないと答えたはずです。不幸なことに、あれだけ記者が大勢いたのに、誰も一番基本的な質問をしなかった。そのために『潰せと言われた』という抽象的な言葉だけで、監督とコーチが不法行為を強要したと決めつけられ、いくら当人たちが、そんな事実はないと否定しても、受け入れられなかったのです」
 さらに火に油を注いだのが、関東学生連盟の調査や日大が依頼した第三者委員会の調査報告だった。双方ともに監督の指示を事実認定したに留まらず、タックルを見ていなかったという監督の主張すら虚偽と一蹴。第三者委員会に至っては、タックル直後に「やりましたね」と監督に近寄るコーチに、内田監督が「おお」と応じたという具体的な会話まで公表、悪玉の印象を決定的に補強したのである。
 こうして問題の試合から約2カ月半が経過した7月の月末、メディアの過剰な同調は頂点に達し、世論に抗しきれなくなった日大は、内田監督とコーチを懲戒解雇処分としたのだが、逆に内田監督から解雇無効の民事訴訟を起こされていたわけだ。
 しかし、メディアが盲目的に信じた善玉と悪玉の構図はその後、一気に崩壊する。試合から9カ月が経過した19年2月、傷害罪で告訴された内田監督とコーチについて警視庁が捜査した結果、相手を負傷させるような危険なタックルを指示した事実はないと断定し、宮川選手だけを書類送検の処分にしたからだ。警視庁は精鋭の捜査一課を動員して、関係者200人を事情聴取し、試合の映像を分析した結果、内田監督が悪質タックルを見ていなかったこと、タックルの時点で、コーチと監督の距離が離れていたため、調査委員会が公表したような会話は存在しなかったことを確認したのである。
(後略)

 

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