記事(一部抜粋):2019年12月号掲載

連 載

【田中康夫の新ニッポン論】田中康夫

本質とはなにか

「ただ有りの儘に物事を見詰めるのではなく、それが如何にしてそうなったかを見抜く力」の大切さを説いたのがパレスチナ系米国人のエドワード・サイード。
 キリスト教徒のパレスチナ人としてエルサレムで生誕。コロンビア大学で比較文学の教鞭を執った彼は、主体的に社会と向き合う“Engagement”としての人生を全うした人物です。その「勘性」は我々に、「コンテンツ」とはなにか、を問い掛けます。電気やガスは偉大な発明です。が、そのまま道端に置かれていたなら我々は殺傷されます。電気やガスを用いて如何なる「利便性」を生み出すか。その段階で初めて素材は中身たり得るのです。
 閑話休題。参議院地方創生及び消費者問題に関する特別委員会の答弁で11月20日、「総理を見る会」と一億総活躍担当の内閣府特命担当大臣が、ジークムント・フロイト的深層心理を開陳した「桜を見る会」。「サクラを呼ぶ会」「サクラが散る会」との異名も喧しき歴代内閣総理大臣主催の行事を巡って喧喧諤諤。前夜祭の会費の多寡にも飛び火して、百家争鳴な一億総活躍です。
 とは言え、「希望小売価格」の有名無実化は白物家電に留まらず。「一物一価の法則」の究極たる着地点「経済的新自由主義=完全競争」を現政権が掲げるにも拘らず、「B to C」のIT時代を反映して航空運賃も宿泊料金も百花繚乱な「一物多価」状態。
「李下に冠を正す」営為と糾弾する側、「李下に冠を整さぬ」営為と弁明する側、双方共に戦略と戦術が稚拙なのです。弁明する側は、「駕籠に乗る人担ぐ人、そのまた草履を作る人」の往時から融通無碍な存在たる旅行代理店に飛行機・部屋・飲食etc.込み込み価格を設定させず、宴会のみ別立て価額とした不明を恥ずべき。
 よもやM資金が「財源」ではないにせよ、A資金かN資金か将又、K資金か、前夜祭を巡る「噂の眞相」は永遠に「藪の中」ならば、全ての公文書・公用文書・公的文書を容量無限大な電子媒体で永年保存を義務付ける超党派の緊急議員立法を呼び掛けてこそ、多勢に無勢な野党の面目躍如。然しもの与党も反対し得ず、清和政策研究会出身・福田康夫氏が心血を注いだ公文書管理法を真のコンテンツたらしめる千載一遇の好機でしょ。
 戦略と戦術が、稚拙以前に稚拙なのは、島国ニッポン「誤送船団」記者クラブの面々。販売部数激減に直面する新聞メディアの“ジャンヌ・ダルク”と礼賛される御仁はドヤ顔で悲憤慷慨ツイート。「番記者が必至(原文まま)に(ぶら下がりで)質問重ねる中、『すみません、時間がありませんので最後の質問にして』を首相連発。韓国の元法相のように11時間記者の質問に答える気力も反論できる材料もないのだろう」。
 呵々。豈図らんや、内閣総理大臣官邸内での会見の主催権は「内閣記者会」に帰属。「国家的重大事・国民的関心事の首相会見をクラブ側が緊急開催可能なのに出席も求めぬチキン仲良し記者クラブ」。コメント付リツイート後、19年前の知事就任直後に携帯電話番号とメールアドレスを公開。日々のぶら下がりにもエンドレスに応じていた僕は、主催権の県側への移行は「言論弾圧」と長野県政記者クラブが翌春に猛反発した「脱・記者クラブ」宣言を想起。
 賃料・光熱費・通信費無料で庁舎内を「占有」の既得権者は、在京・在阪「記者クラブ」メディアすら事前出席申請書を求め、宗教団体や政党の「聖教新聞」「赤旗」等の出席は罷り成らぬと高言。その一方で「お貸し下げ情報」に頼る警察本部長と検事正の会見主催権は未だに山国のみならず全国で端から「返上」。ダメ駄目な「呆痴国家」ニッポンの縮図です。

 

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