記事(一部抜粋):2019年12月号掲載

社会・文化

新聞記者たちを襲う老後不安

早期退職勧奨制度で辞めた後は……

 11月10日から4日間、朝日新聞に掲載された「老後レス時代」という連載には、社会のレールから外れてしまった人々が次々と登場する。70歳を超えてなお働き続けなければ生活できないガードマンや、将来、生活保護を受けるしかないと悲観する非正規社員のシングル女性、仕事もないのに会社にへばりつき、ただ定年を待っているかに見える50代後半のサラリーマン……。人生でスポットライトを浴びる機会の少なかった彼らの生活の有り様を報じながら、老後の生活不安や厳然たる格差を浮き彫りにしていこうという趣旨の企画だった。
 連載第1回では、古希を超えた高齢警備員が「まさかこの年まで働かないといけないなんて。70歳を過ぎると選べる仕事なんてないですよ」と嘆いているが、温かい目線で弱者に寄り添いながら、格差を生みだしている政治や社会に疑問を呈するという、いわば理想論のお好きな朝日新聞らしい連載だった。正社員という安全な地位から滑り落ちてしまった非正規社員の老後不安にも触れていたが、そこには目下、朝日新聞社が抱えているよく似た問題については全く書かれていなかった。実は、朝日新聞社本体がこの2019年の師走、一時金というニンジンをぶら下げ、45歳以上の社員を100人以上、早期退職させようとしているのである。
 本誌が入手した朝日の社内文書によれば、今回の退職勧奨制度の募集期間は12月9日から23日まで15日間。対象となるのは、10年以上の勤続年数を持つ45歳以上59歳未満の社員で、航空部のパイロットや航空技術者は、その対象外となっている。
 この条件に合致するベテラン社員が説明する。
「決算の数字が公表されたころから、そろそろ表立って早期退職勧奨という名のリストラを始めるんじゃないかという声は社内でちらほら上がっていました。というのも、2017年以降、大規模なリストラは止んでいましたが、小規模な早期退職はあったのです。その証拠に、この前の決算でもリストラ費用として10億円が計上されていました。しかし今回の場合、応募期間が2週間しかないのは仰天です。じっくり考える暇を与えずに決断を迫るつもりなのでしょうか……」
 ちなみに朝日新聞社の早期退職勧奨はこれで3度目。今回は「転身支援制度」と、かなり前向きな名前がついている。対象となる社員は約2500人に上り、全社員の5割を少し超えている。このベテラン社員によれば、会社側は内々に応募者を120人以下に抑え込もうとしており、期間内であっても定員に達した場合は、募集が即打ち切りになる可能性があるという。
(中略)
「いまや朝日新聞社は利益の8割近くを不動産部門で稼ぎ出しています。高給を取っている記者たちが会社の利益の足を引っ張っているため、実は来年、朝日新聞は基本給を下げることが既定路線です。だから、自分も含めて50歳以上の対象者は、この転身支援制度に応募して第2の人生を歩み始めるかどうか、結構悩んでいるはずです。社内では編集経費も全然使えなくなっているし、紙の新聞に、いま以上の未来像が描けないことは誰でもわかっている。例えば、定年まで勤めて60歳を迎え、その後に嘱託記者になったところで、年収は3分の1どころではないと言われていますから……。新しいことを始めるのなら、いましかない。このチャンスを逃したら取り返しがつかないのではないかと焦ってしまう。皆同じことを考えて、120人の枠なんてあっという間に埋まってしまうのではないかと心配になります」(同)
 日本ABC協会がまとめた2019年上期(1〜6月)の平均販売部数を見ると、朝日新聞は約558万部で、前年同期比6.3%減。500万部を割り込むのはもはや時間の問題と言われている。だが、もがいている新聞社は朝日新聞だけでないことも事実。なぜか、まるで示し合わせたかのように同じタイミングで、産経新聞も毎日新聞も早期退職勧奨を実施していたのだ。
(後略)

 

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