記事(一部抜粋):2019年11月号掲載

社会・文化

経産相辞任の陰に小池都知事

内部告発者の元秘書は都民ファースト陣営

 企業の不正を糺す内部告発の保護を目的に「公益通報者保護法」が施行されたのは2006年のことだから、すでに干支一回り以上の歳月が経過した計算になる。少し大袈裟に言えば、それまでは一か八か、半ば命懸けだった内部告発者に、お上が救済の手を差し伸べたわけだ。
 しかしその一方、告発の動機が常に正義感ばかりでないことはスキャンダル報道の歴史が証明している。出る杭は打たれるの諺のとおり、先を行く者の足を引っ張りたくなるのも悟らざる人の常なのだ。それゆえ、公益通報者保護法第2条には、「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく」と、くどいくらいの前提が書き連ねられている。
 だが現実に目を向ければ、正義感だけの内部告発などはおそらく藁の山の中で針を探すのに等しい。その好い例が菅原一秀経済産業大臣(57)を辞任させた一連の週刊誌報道ではなかったか。菅原大臣が昔、選挙区の後援者たちにメロンを贈り、不幸があれば遺族に香典を渡していたという元秘書の内部告発が1カ月も鳴り止まなかったのである。
 ある社会部記者が解説する。
「週刊文春の報道は10月初旬から始まって、毎週のように菅原大臣のことを叩き続けました。最初の週は、菅原さんの選挙区である練馬区の有権者にメロンやカニなどを贈っていた疑惑と、秘書に対して厳しく当たりすぎるというパワハラの告発。2週目はメロンの贈呈先リストをつくらされていた秘書の証言、3週目は、現在の公設秘書が地元の元町内会長の通夜に足を運んで香典を渡した話と、大臣就任祝いでもらった胡蝶蘭を最終的に、地元の有権者に渡してしまったという話です」
 もちろん公職選挙法を杓子定規に解釈するなら、いずれも疑義を持たれて致し方ない話に違いない。だが、当初、この疑惑は内閣や自民党内では、さして大きな問題として受け止められていなかったという。社会部記者が続ける。
「どの話も帯に短しタスキに長しというか、経済産業大臣を追い落とすには情報としての迫力が足りなかったのです。例えば、メインテーマとなっていたメロンやカニを配ったという疑惑の場合、新聞が腰を上げて追及するには時期が古すぎました。記事によれば、告発している秘書が贈答品リストをつくったのが今から12年も前の2007年。公職選挙法の公訴時効は3年ですから、事実だったとしてもとっくに時効になっている。しかも決定的なのは、内部告発をした秘書自身も、本当にメロンが有権者の元に届けられたのかどうかの事実について曖昧で、確認していないと話していたこと。さらにもう一つ付け加えれば、この疑惑は、09年に週刊朝日がすでに報じていた話だったのです」
(中略)
 ところが、このまま疑惑が尻すぼみで収束しそうな流れに一石を投じたのが、10月24日発売の週刊文春に掲載された証拠写真だった。この10月半ば、菅原大臣の公設秘書の1人が後援者の通夜に出席し、香典を渡した現場を撮影したのだ。
「公職選挙法は、政治家本人が葬儀に参列して香典を渡すことは許しています。しかし、本人以外の人間、たとえば政治家の妻や、秘書が代理出席して香典を渡すことを罰則付きで禁じています。事ここに至って、迫力不足だった菅原大臣の疑惑も、新聞が取り上げざるを得ない話に昇格したわけです。とは言うもののね……」
 と、首を傾げるのは大手紙の政治部デスク。
「なぜこんな最悪のタイミングで、秘書がそんな初歩的なミスをしたのか、という問題はさておき、これが菅原大臣の辞職にまで発展するかどうかは疑問でした。というのも、菅原経産相は秘書が参列した通夜の翌日、自身が葬儀に出向いて遺族に直接、香典を渡したと説明していた。つまり、彼はその前の日に秘書が香典を渡していたことを知らずに、最初から自分で葬儀に行って渡す予定だったと解釈できるのです。そうすると、その公設秘書がやったことは、菅原大臣の指示ではなかったことになる。さらに、菅原一秀の名前で2回、香典を受け取っていることに気づいた遺族は、秘書から貰った香典をすでに菅原事務所に返却しているのです。こうなるとミスはミスだけれども、致命傷とまではちょっと言えない。秘書への教育が足りないという批判はできたとしても、公選法違反だから大臣を辞めろとまで迫るのはなかなか厳しかったはずです」
 御存知の通り結果的には、自身の問題で国会が空転することを案じた菅原氏が辞職を選び、内部告発者の溜飲を下げたのである。
 ここで告発をした元秘書たちの人物像と背景を見ていくと、やはり一癖も二癖も有るのだという。
(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】