保険の不正販売が相次いで発覚した日本郵政傘下のかんぽ生命保険と日本郵便についに金融庁のメスが入った。営業実態や経営陣の関与などの検査は数カ月に及ぶ見通しで、7月から自粛している保険営業の10月の再開も延期を強いられた。年内をメドに検査結果が出ることになるが、業務改善命令などの行政処分とともに「日本郵政グループそのものの経営体制の抜本的な見直しを迫る可能性もある」(金融庁関係者)という。
今回の不祥事の根底には、グループのビジネスモデルの行き詰まりがある。日本郵政を通じて政府の間接出資を受けるかんぽ生命は、民業圧迫回避のために新商品開発は制限され、医療保険単独での販売も認められていない。魅力的な商品に乏しいなかで、過大なノルマを課したことが不適切販売を招く大きな要因となったのは間違いない。
郵政グループは、かんぽ生命とゆうちょ銀行からの販売手数料収入を頼りに日本郵便が全国の郵便局網を維持するという歪な経営構造だが、肝心の金融2社の収益環境も厳しい。かんぽ生命は新規契約者の高齢化にも直面、収益力アップのための契約額の引き上げやがん保険への進出、民間への販売委託もままならない。さらに、不適切な手続きによる高齢者などへの投資信託の販売が発覚したゆうちょ銀行も、様々な制約と地方経済の縮小など逆風に晒されてきた。
いうまでもなく郵政グループの最大のネックは、日本郵政株を57%保有する政府や監督官庁の総務省、そして金融庁の存在である。大票田である郵便局の削減は政治家の圧力でタブー視され、民間銀行が店舗や人員のリストラを断行するなか、民営化後もゆうちょ銀行などの合理化は遅々として進まない。何よりも「経営陣は政治家や官僚、全国の郵便局長会を向いた経営に終始してきた」(永田町関係者)のだから、まともな経営戦略を打ち出せるわけもなく、過剰な営業ノルマによる不祥事は必然だったのかもしれない。
こうした場当たり的な経営は、もはや限界に近づいていることは誰の目にも明らかだ。本来であれば、政官の縛りの排除やガバナンス(企業統治)の正常化のためには、日本郵政の「完全民営化」しかない。ところが、今回の不祥事で逆に民営化は遠のく始末だ。
それにしても、日本郵政グループはあまりに巨大すぎる。とくに、異業種の参入やIT、AI(人工知能)の普及によって従来の枠組みが崩れつつある金融部門は、大幅に縮小しなければ将来的に生き残りは難しい。かといって、全国規模のユニバーサルサービスを即座に放棄するわけにはいかない。そこで、預金量180兆円のゆうちょ銀行を「旧国鉄(現JR)のように、地域分割して地元の地域金融機関と連携して縮小させてはどうか」といった大胆なシナリオが実しやかに囁かれはじめた。
一方で、「いっそのことJAバンクと合体させて、時間をかけて縮小均衡を進めては」(メガバンク幹部)との仰天シナリオもある。
(後略)