記事(一部抜粋):2019年10月号掲載

政 治

初っ端で躓いた小泉環境相

「汚染水」で勉強不足を露呈

(前略)
 新閣僚の目玉は小泉進次郎氏(38)の環境相だった。38歳での入閣は戦後3番目の若さである。
 今回の内閣改造は、これまで安倍政権の中で首相を支えてきた人たちを中心に組まれているが、小泉氏の場合は必ずしもそうではない。起用は菅官房長官の意向が大きく反映したともっぱらだ。小泉氏の“発信力”を評価するとともに、改造内閣が「お友だち内閣」とステレオタイプの批判を避ける「弾よけ」になり得ると考えてのことだろう。
 環境相は初入閣としては厚遇のポストといえる。初入閣では内閣府特命相に就任するケースが多いが、実は特命相というポストには官僚の人事権がない。内閣府官僚の人事権は官房長官が持っているからだ。それに対し、環境相は環境省官僚の人事権を持っているので、その分、舵取りがしやすいはず。小泉氏に対する期待の大きさが窺える。
 今後の活躍次第では、首相候補に化ける可能性もある。これまでは政策の「実行」「実現性」についてはさほど考えずに発言できたが、大臣になるとそうはいかない。
 期待が大きい小泉氏だが、大臣初日の記者会見では、福島原発の「処理水」についての応答でつまずいた。前任の原田義昭氏が所管外の個人的意見として表明した「処理水を希釈して海洋に放出する」という考えを、「国の方針でない」と事実上否定し、関係者に謝罪したのだが、これは軽卒というしかない。
 記者からの2問目の質問への答えだったが、小名浜漁連組合長の名前を出し、「素晴らしい人」と持ち上げながら、「そうした人たちに寄り添っていくことが大切」と答えた。いわば「情緒」によって、科学的な知見に基づく原田氏の意見を否定したわけだ。
(中略)
 福島の処理水問題は、過去に起きた世界の原発事故では見られなかった問題だ。東京電力福島第1原子力発電所では、デブリ(溶融燃料)を冷やし続けるための水や雨水、地下水が放射性物質に汚染され、大量の汚染水が発生している。東電は、建屋内に入り込む雨水や地下水をできるだけ少なくする努力を続けており、汚染水は2014年度の1日平均470トンから減ってはいるものの、18年度でも170トンもある。
 東電は、専用装置の多核種除去設備 (ALPS)を使って汚染水からセシウム、ストロンチウムなど62種の放射性物質を概ね取り除いている。ただ、現在の技術では、トリチウムを除去することは困難だ。
 こうした現状については、東電の処理水ポータルサイトを見れば誰でも知ることができる。
 昨年夏、処理水にトリチウム以外にも基準値以上の放射性物質が含まれていると報じられた。そのため反原発派は、「東電はALPSによりトリチウム以外は除去したとウソをついてきた」と批判した。これに対し東電は「タンクに貯蔵している分では基準を満たしていないものがあるが、環境に放出する際にはもう一度浄化処理(二次処理)をおこなっているので、基準を満たしており、データもきちんと情報公開している。ウソをついていたわけではない」と反論している。
 処理水のトリチウム以外の放射性物質が基準値以下であれば、水で希釈して海水に放出することに問題はない。原田前環境相が言ったのもそういう趣旨だ。実際、トリチウムの放出は世界でもおこなわれていることで、原子力規制委員会もそれを認めている。
 もし処理水にトリチウム以外の放射性物質が基準値より多く検出されたら、基準値以下になるまで再除去を繰り返すだけである。基準値以下になるまでは処理水の保管を続けるしかない、という単純な話だ。
(後略)

 

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