東京都千代田区丸の内界隈の三菱地所のビル、あるいは港区内に多数ある森ビル──。これらのビルの床はいつもピカピカで、ゴミも皆無。トイレも清潔でトイレットぺーパーが切れていることもない。また夏冬問わず快適に温度が保たれ、空調もしっかり管理されている。警備体制もきちんと敷かれているのだろう、トンデモ客や怪しい人物を見かけることもほとんどない。
それは数多くの清掃員、空調などの管理者、警備員らの働きがあってのことだが、この“縁の下の力持ち”の大半が高齢者で、しかも低賃金、長時間労働を強いられており、結果、過労死する者まで出ているのが現実だと知ったら、読者はどう思われるだろうか。
筆者の元に、それを訴える告発メールが届いたのは今年2月上旬のこと。差出人は、これらのビルを管理する大手総合ビルメンテナンス会社の現役社員を名乗っていた。以降、10回近くメールが来て、その多くには社員でないと入手できないであろう内部文書が多数添付されていた。
そのビルメンテ会社の社名を明かす前に、1通目の「告発文」を紹介しよう。問題の核心部分が手短かに述べられているからだ。
この告発文、実はある月刊経済誌が社名を伏せて紹介していたものだが(今年1月号)、冒頭、昨年10月にマスコミで報じられた過労死問題について述べている(一部要約)。
《先日、グループ警備会社の過労死報道があり、現場でも話題となりました。起こるべくして起こったと、皆、考えています。しかし、本社の対応を見ても、特に高齢者の人命を軽く扱う組織風土は許し難く、広く世間に知っていただきたく考えます》
そして上場基準に十分達している(中核企業単独でも年商約382億円、経常利益約7億3000万円=2018年3月期)にもかかわらず上場しない理由をこう述べる。
《上場してしまうと「40歳年収全国ワースト500社ランキング」(東洋経済)の10位以内に必ずランクインするため。しかし役員は別。企業規模からして役員数が数十人と多過ぎ、非上場の会社四季報によると役員は1株100円配当を得ているが、社員にさえ損益計算書の説明をしません》
そして、数千名の労働者がいるにもかかわらず、労組を結成させないのだという。
《その理由は労組の団体交渉権を潰し、定期昇給を廃止することにあります。そのため、元々あった労組を解散させ、再結成しようとする社員を解雇しています》
社員に低賃金を強いる一方、入札価格を他社よりかなり低く設定することで、冒頭で述べた“丸の内の大家”ともいわれる三菱地所関連、森ビルなど都心の大型物件を主体に総合ビルメンテ業務を数多く受注しているという。
その低価格の受注を可能にするために高齢者を多く雇っているというのだが(外国人も安く雇えるが、三菱地所側が嫌がっているとも)、さらにこんな注目すべき記述が続く。
《税金が投入されているため利益率が高い福島原発の清掃、除染作業等に高齢者を従事させ、本業の売上不足分の穴埋めをしています。高齢者なら、たとえ放射線の影響で癌になっても裁判で因果の立証が困難だと考えているからです》
この大手総合ビルメンテ会社はグループ内に原発の除染作業などを手がける会社を持ち、そちらでも高齢者を使って儲けているというのだ。
メールにはそこでの求人票も添付されており、それを見ると給与は月15万円少し。元請けの日当が10万円ともいわれるから確かにこれは安過ぎだ。
さて、この告発文が指摘する独立系大手総合ビルメンテ企業とは「グローブシップ」(東京都港区)のことだ。
同社は「日興証券」の社長だった遠山元一氏の支援により、遠山氏の義弟らが1853年10月に設立。現在社長を務めるのは、設立時のメンバーで前代表、大株主(6.8%)でもある鈴木貞一郎氏の娘婿、旧三菱銀行OB(国際企画部部長代理)の矢口敏和氏(65)だ。
一方、原発の除染作業などを受注しているのは「アトックス」(旧社名・原子力代行)で、本社住所はグローブシップと同じ。代表も同じ矢口氏だ(前代表も前出の鈴木氏。その鈴木氏は個人でアトックスの13.3%を保有する第2位株主。筆頭はグローブシップで35%。そしてアトックスもグローブシップの株式を48%保有する筆頭株主)。
このアトックス、そもそもはグローブシップの一部門として、わが国で初めて日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)の実験炉が臨界状態となった1957年、民間企業として初めて原研の清掃業務を受託。その後、機械メンテや水管理、さらに除染へと事業領域を拡大し、いまやわが国のすべての電力会社の原発の仕事を受注するまでになっている(六ヶ所村や東海村も)。売上高は約253億円で経常利益は約14億円(18年3月期)。
当然、11年3月の福島第一原発の事故後の除染にも従事しており、16年3月期には売上高約303億円、経常利益約25億円を計上している。
(後略)