B 『文藝春秋』7月号のグレッグ・ケリー前日産自動車代表取締役のインタビュー記事は読んだ?
C 人道的にもかなり問題のある逮捕だったことは間違いないね。マスコミが検察当局のお先棒を担いで、盛んにゴーンの人格破壊攻撃をやったわけだ。組合の幹部は「ゴーンさんはコストカッターと言われているけど、積極的な人員整理はしない人で、自然減にまかせていた」と言っていたよ。
B それで潰れかかった日産を急回復させたのだから、やっぱり経営能力が優れていたんだろうね。 ところで、次の経営陣だけど、引き揚げてもらった恩のある親分を検察に売り渡した人物をそのままトップにして、それで本当に部下がついてくるのだろうか? 矢沢栄吉の「やっちゃえ日産」のCMじゃないけど、本当にやっちまったって気がする。
A 日産には昔からどろどろとした社史がある。1950年頃から労働争議に悩まされていたんだけど、その組合を潰す目的で押しの強い塩路一郎を入社させたのが、メインバンクの日本興行銀行から経理担当常務として送り込まれた川又克二だった。川又は塩路に第2労働組合を作らせて第1労働組合潰しに成功。その功績が評価されて川又は社長に昇格するだけでなく、後に興銀から金杯が授与された。
B その塩路が「塩路天皇」と呼ばれるようになって、人事などは塩路の承諾なしでは何も進まなくなったと言われている。ところで興銀からの金杯って、他に貰った人はいるの?
A 金杯の話は、そごうの水島廣雄元会長の友人から聞いたんだけど、興銀に多大な貢献をした3人だけに与えられたらしい。もう20年も前の話だから、川又と水島が貰ったことは覚えているけど、もう一人が誰だったかは忘れてしまった。
C 日産が川又、塩路体制になって20年ぐらい経つと、組合を牛耳っていた塩路が増長し、人事だけでなく経営方針も塩路がクビを縦に振らなければ、何も進まなくなってしまったと言われている。
A そうそう、そこで「労使協調路線」の名を借りた労組の経営介入に異を唱え、生え抜きとして社長となったのが石原俊だった。その塩路潰しの手法は、マスコミを使って小出しに金権体質をリークするというもので、今回のゴーンの人格破壊報道の手口と同じ。
B まさに「歴史は繰り返す」だよね。結果、塩路潰しをやって、経営は良くなったわけ?
A 塩路が主張していた経営方針のほうが正しくて、石原の積極的な海外進出の失敗が日産の凋落を招き、最終的に仏ルノーに身売りする一因になった。
C ここでの教訓は、いざ頂点に立って権力を握ると、人間はつけ上がって自制が利かなくなる動物であるということ。それは塩路や石原だけでなく、ゴーンや西川にも言えること。いずれにしても日産の前途は多難だと思う。
B ところで、交渉はうまくいかなかったようだけど、ルノーとフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の統合話が突然持ち上がったね。
C この背景にはEUの厳しい環境規制問題がある。EUが設定する新車の二酸化炭素の排出量目標は2021年までに平均で1km当たり95gと、従来の130gからさらに厳格化された。走りを追求するFCAがこの条件をクリアするのはほぼ不可能。だから、電気自動車に強いメーカーと手を結ぶ必要性に迫られている。
A 仰る通りなんだけど、今回の統合話は端から、別の本命企業との統合話から目を逸らさせるためのカムフラージュだったらしい。
(後略)