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トランプ大統領との過剰な蜜月を除けば、安倍外交は八方ふさがりで、支持率改善の見込みはない。しかし、そんななか水面下で北朝鮮問題が動き出している複数の兆候が観測されるという。
その一つは、17年前の日朝首脳会談の舞台裏で暗躍した北朝鮮側の窓口「ミスターX」の亡霊だという。
北朝鮮問題に詳しいジャーナリストが解説する。
「第一の兆候は、亀井静香元金融担当相の登場です。イランから政府専用機で帰国した6月15日、首相は亀井さんと官邸で面会しています。亀井さんは重要閣僚を歴任し安倍さんとも親しい間柄とはいえ、今は政治家を引退した単なる市井の人。イランから疲れて戻ってきた直後にわざわざ面会するほどの重要案件があるとは考えにくい。ただ、亀井さんは最近、韓国に住む仲介者を通じ、北朝鮮と何らかの接触をはかっているようなのです」
実は、亀井氏が官邸に安倍総理を訪ねる頻度はこのところ高くなっている。新聞の首相動静を確認すると、2015年からこの6月までに亀井氏の名前が出てくるのは11回。15年が1回、16年が1回、17年が3回、18年が3回。そして今年は3月、4月、6月と立て続けに面会している。
今年は統一地方選挙や平成から令和への御代替わり、トランプ大統領の来日など、いつにも増して過密なスケジュールだったわけだが、その合間を縫うようにして、安倍首相が一般人である亀井氏とたびたび面会するのは、何か特殊なミッションの報告でもないかぎり不自然と見られているわけだ。
北朝鮮ウォッチャーが続ける。
「実は、亀井氏はこのところ頻繁に韓国を訪問していることがわかっています。韓国で中規模の太陽光発電プロジェクトに関与しているらしいのですが、同時に、北朝鮮の体制につながるパイプを作ったようなのです」
この憶測の状況証拠の一つとして挙げられるのが、2カ月前、唐突に流れた日朝首脳会談の無条件開催という話である。金正恩・朝鮮労働党委員長との会談を実現させるためなら、北朝鮮側に何一つハードルを課さないと、突如、安倍首相が言い出したのだ。つまり、首脳会談を開くなら、拉致問題の前進が大前提というこれまでの方針を大転換した裏側に、水面下で接触している北朝鮮サイドの意向が働いているのではないか、と勘ぐられているのだ。
そしてもう一つ、今年、北朝鮮ウォッチャーたちを驚かせた新聞記事があった。2月4日の朝日新聞朝刊に掲載された「正恩氏側近に口出す男性 トランプ氏との面会にも同席 謎の人物像、各国が関心」と題された記事だ。
その記事の冒頭を引用する。
《北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長が1月に訪米した際に同行した男性の正体に関係国が関心を寄せている。人物像に関する資料がない中、訪米時に金正恩党委員長の最側近とされる金英哲氏にたびたび口出しする姿が目撃されたからだ。関心を集めているのは、『朝鮮アジア太平洋平和委員会副委員長』の朴チョル氏(後略)》
この記事には3人の男性が金正恩委員長に報告する様子を捉えた朝鮮中央通信の写真も掲載されており、その左端が朴チョル氏だとしている。
要するに北朝鮮の最高幹部として全く知られていない人物が突然、顔を出したことを訝る趣旨の記事だったのだが、この朴チョル氏の正体が日本との秘密交渉を担ってきた覆面の北朝鮮高官、ミスターXだという見方が浮上しているのだ。
(後略)