記事(一部抜粋):2019年6月号掲載

社会・文化

門前薬局利権に群がる有象無象

【狙われるシルバー世代】山岡俊介

 人口約15万人、源氏発祥の地としても知られる兵庫県川西市には「市立川西病院」(250床)がある。
 しかし病院の老朽化に加え、今後、後期高齢化が進む(75歳以上の市民の比率は現在の約15%から2040年には約22%まで増えると予測)なか、医師不足、病床数不足が懸念されるため、新病院の建設計画が持ち上がっている。
 市北部・東畦野5丁目の現在の川西病院とは別の市南部・火打1丁目に土地を購入し、病床数を約400に増やした新病院を建設、現在の川西病院跡には分院を残すというものだ。
 川西市はコストを下げるため、運営を民間に委託する。昨年11月には、地元の医療法人「協和会」が担当することが決まった。
 そして今年4月1日には新病院を建設する業者を選ぶ一般公告が始まり、7月下旬に落札者が決まる予定だ。2021年の開設を目指すといい、総事業費は約300億円にのぼる。
 このように新病院建設の大まかなスケジュールは決まったとはいえ、市はまだ新病院建設予定地を購入すらしていない。
 ところが、新病院建設予定地の正面玄関前の土地(下の写真を参照)は、すでに業者によって買い占められたことがわかっている。筆者の元にこんな告発があった。
「その土地にビルが建てば、調剤薬局としてはどんなに高い賃料を払っても借りたいはず。新病院で処方箋を出してもらった患者の大半は、病院の前に薬局があれば、帰りがてらにそこで処方薬を購入するからです。営業活動をせずとも客のほうからやって来てくれるので、薬局は儲かる。保険収入なので取りっぱぐれもない。この新病院建設を推進したのは昨年10月に高齢のため引退した前市長です。その市長の側近だったY元市議の筋が動き、早い段階で土地ブローカーが新病院建設予定地の前の土地を買い占めた。その過程でトラブルが起きています」
 大きな病院ともなれば、病院の周囲に多い時には十数店の調剤薬局が軒を連ねることもある。そのため、俗に「門前薬局」と呼ばれている。そんなに乱立して儲かるのかと疑問に思うが、むろん、儲かるから軒を連ねているわけだ。
 そのカラクリは後述するとして、先の告発の裏取りをしてまず驚いたのは、土地ブローカーを経てすでにその土地(約200坪)が昨年12月19日、すべて「協和会」が購入していたことだ。協和会は前述した通り、新病院の運営を任されることが決まっている医療法人だ。
「市はどの病院に運営を任せるかについては公募したが、実際に申請したのは協和会だけでした。その協和会が門前薬局の土地を事前に購入したということは、前市長と癒着し、早くから新病院建設予定地の情報を知っていたからだと考えれば合点が行く。当然、前市長側には大きな見返りがあったはずです」(前出・告発者)
 前述したように、協和会が新病院建設予定地の正面玄関前の土地を購入したのは昨年12月。そして登記簿を見る限り、前市長の筋と思われる土地ブローカーR社(大阪市中央区)が同地を買い占めたのはその1カ月ほど前だ。しかし、入手した「土地建物売買契約書」(下の写真)によれば、実際に前の所有者とR社が売買契約を結んだのは14年12月10日。新病院建設案が公表された17年5月より2年半以上も前のことだ。
 買収していながらR社がすぐ登記しなかったのは、新病院建設のインサイダー情報に基づいて土地を購入したことを秘匿するためだったと思われる。
 しかもこのR社、協和会に売却する一方で、S社(神戸市東灘区)にも購入を持ちかけている。筆者が入手した「領収証」によれば、昨年4月26日、手付金としてS社側から1000万円を受け取っている。つまり、二重売買した疑惑もあるのだ。
 それだけではない。R社のM代表は、門前薬局の予定地のすぐ近くのわずか約3平米の土地を、「ここは門前薬局予定地の要の土地。ここを押さえておけば、3倍の値段で売れる」と事情をよく知らない女性に持ちかけ、何と2500万円で売っている。17年8月4日のことだ。
 繰り返すが、たった1坪の土地が2500万円である。3倍で買ってくれる相手は一向に現れない。投資詐欺話と見てまず間違いないだろう。
(後略)

 

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