天皇の生前退位にはいろいろ議論があったが、新元号が発表されると祝詞一色で、景気浮揚にもなると好評だ。昭和天皇が崩御したあと1年くらいは「何事も控えて」というムードが続いたことに比べると大きな違いだ。改めて今上(平成)天皇の配慮に感謝しなくてはならない。
しかし世界史、近代工業史などの視点で平成の30年を振り返ってみると、日本が一人負けしている姿がハッキリする。平成元年に中国のGNPは34兆円でちょうど九州と同じ規模だった。ところがこの間、中国のGDPは一直線に伸び、九州はおろか日本全体の2.5倍以上になった。「世界の工場」となっただけでなく、今では特許や論文などでも日本をはるかに凌ぎ、ハイテク分野でも米国を脅かしている。スマホにおける5G革命でも華為が北欧勢と肩を並べて米国が最も警戒する企業となった。
平成の30年間で日本のGDPはほとんど伸びなかったが、米国は4倍になった。株価に至っては平成元年初頭を100として米国が927と恐ろしい伸びを示しているのに、日本は逆に57とほぼ半減である。この間、米国やヨーロッパの賃金はほぼ2倍になったが、日本は7%減った。「史上最長の好景気」という選挙対策のために政府が統計をいじらなくてはならないほど実体経済は低迷している。
そうした中で一直線に伸びているのが国家債務だ。平成元年にはGDPの60%だったものが238%とOECDの中ではダントツのトップである。EUの劣等生と言われているイタリアが130%だから日本がいかに将来世代から借金しているかがわかる。人口が減少している日本で将来世代に借金を付け回すことがいかに危険か、議論する学者も政治家もいない。爆走する隣人中国から目を逸らし、欧米も停滞している、と思い込んでいる日本人ほどノー天気な国民はいない。「さらば平成、来々令和」と言う前に、なぜ平成日本はかくも激しく世界史の中で衰退したのかという反省と、復活の勢いを取り戻すための新しい構想がなければならない。日本は元号が変わり、新札が出て、オリンピックだ万博だと浮かれているが、それら全てが危険な20世紀の遺物であることを知るべきだ。世界中でキャッシュレス社会に急速に移行しているのに、明治時代の資本家渋沢栄一の顔を拝んで喜んでいる場合ではない。
いま世界は激しい地域競争の時代に突入している。香港に隣接する深圳を開発特区にしてあやかろうとした鄧小平の一国二制度は、いまや「大湾区」として澳門、香港、深圳、東莞、広州などが高速道路や鉄道で結ばれ、世界のメガリージョンの先頭を走っている。さらに上海を中核とした長江デルタや、新首都雄安まで視野に入れた習近平肝いりの京津冀一体計画などが目白押しだ。いずれもハイテク企業を中心として伸ばしていくために世界中からヒト・カネ・モノ・情報を毎日引き寄せる戦略をとっている。一過性のイベントで繁栄しようなどと考えているところはない。米国もシリコンバレーがサンフランシスコ湾全体に拡大し、世界から人と投資を呼び込むメガリージョンになっている。日本では東京一極集中を非難し、地方創生を政治課題としているが、メガリージョンの大競争時代に、東京はもっと世界からヒト・カネ・モノを取り込むことを考えないといけない。都市別GDPランキングで現在世界7位に位置している大阪も2035年には17位に脱落するとの予想が公表されている。大阪都構想も関西圏全体に広げて魅力を増していかないと繁栄は呼び込めない。
(後略)