ここ10年余り、全国の中小企業の経営を支えてきた「中小企業金融円滑化法」(モラトリアム法)が3月末で名実ともに終了したことで、今後は膨大な数の中小零細企業が消滅するとともに、地域金融機関の最終淘汰が加速しそうだ。
リーマン・ショックを契機に中小企業の資金繰り支援のために2009年12月、当時の亀井静香金融相主導で立法化されたモラトリアム法。同法は、金融機関が融資先に対する返済猶予や金利減免などのリスケジュールを通して、中小企業の返済負担を軽減するもの。その承諾の判断はあくまで金融機関に委ねられるものの、金融庁が金融機関に実行件数の報告義務を課したことで、「融資先が赤字でも承諾せざるを得なかった」(大手地銀幹部)という。同法の実行率は約95%、つまりほぼ無条件で要請に応じてきたわけだ。
モラトリアム法は13年3月末で終了したが、その後も金融庁は金融機関に任意で実行件数の報告を求めたことから、実質的に同法は継続されてきた。法的根拠を失ったにもかかわらず、終了後も申し込みは500万件を超え、実行率はなんと9割を超えた。その結果、旧来のビジネスモデルを温存したままの救済策が企業の新陳代謝を阻み、ゾンビ企業の増殖を招いてしまったのである。「リスケ先の6割程度は業績が改善せず、正常先債権への格上げは4割にも満たない」(大手信金審査部)のが実状で、水面下で“倒産予備軍”が着実に膨れ上がっているのは間違いない。
企業倒産はリーマン・ショック以降、長らく減少傾向を辿ってきたが、実はこれまで経営者が諦めない限り、企業はなかなか潰れなかった。これは景気や業績の回復もあるが、何といっても借入金の返済猶予など金融機関の手厚い支援に尽きる。金融機関は債務超過でもリスケを継続、取引先も共倒れを恐れて支払いが遅れても取引を打ち切らず、手形も切らない。これでは滅多に潰れるものではない。そうした意味では、倒産は自律的な要因で「減少」を続けてきたというより、「抑制」されてきたと見るべきだろう。ところが、昨年あたりから「将来性が見込めない」「後継者がいない」などの理由で事業の継続を諦める中小経営者が徐々に顕在化し始めた。減少トレンドが続いてきた倒産件数は低水準ながらもすでに底を打ち、明らかに潮目は変わってきた。
こうしたタイミングでの金融庁への報告義務が廃止された今回のモラトリアム法の終了は、かなりのインパクトを持つ。折しも景気がリセッション局面を迎えようとしている時期だけになおさらだ。本来であれば、金融庁の縛りが解かれた金融機関は不良債権の処理に踏み切り、優に10万を超える中小企業が倒産や廃業の引導を渡されることになる。
それでは一気に倒産予備軍の処理が加速するのかといえば、残念ながらいまの金融機関にその余力はない。とくに地銀・第2地銀・信用金庫・信用組合の地域金融機関は地方経済の疲弊やマイナス金利政策によって地銀でも半数が2期連続赤字、5期連続赤字が2割を超えるという惨状で、とても貸倒引当金を積み増す体力はない。さらに、営業エリアが限られるなかで「不振企業の処理は融資先の激減につながり、自らの首を絞める」(第2地銀幹部)というジレンマを抱える。
(後略)