女性専用のシェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズが破綻したのが今年の4月。ここ数年、夢心地で「かぼちゃの馬車」に揺られ、ジャブジャブと融資してきた「スルガ銀行」は魔法が解けた馬車から転落し、悪夢のような現実と向き合っている。株価はほぼ3分の1まで値下がりし、いまだ本当の底値は見えない。当然ながら業績も落ち込みが著しく、2018年3月期の純利益は、前年に比べて83%減らした69億円。今年度の第1四半期も惨憺たる数字で、さらに第三者委員会の調査により、ノルマを果たすための組織的な関与まで明らかになってきた。
つまり、このまま信用を回復できないと来期は赤字に転落しても誰も驚かないような状況なのである。
(中略)
ただし、スルガ銀行の場合、他の地銀や第二地銀とは事情の異なる一面があったことは確かだ。それは、創業家である岡野一族がほしいままに権勢をふるってきたという特殊事情である。経済ジャーナリストがこう語る。
「退任する岡野光喜会長は、頭取に就任した40歳の時から33年間に渡って頭取や会長を務めてきました。2016年に亡くなった岡野喜之助副社長も実の弟で、兄弟二人でスルガ銀行を支配してきたのです。歴史を紐解けば、スルガ銀行は岡野会長の曽祖父が明治維新後につくった貯蓄組合が前身。その後、岡野会長の祖父も父もトップを務めてきました。オーナー家として株も15%ほど保有していますし、地方銀行を一族で支配し続けたため、誰も物が言えなくなり、スキャンダルも少なくなかった。例えば、岡野会長の父は、鎌倉市の材木座におおっぴらにお妾さんを住ませるために豪邸を建てましたが、諫言する部下はいなかったそうです」
一族による独裁的で独善的な企業統治が、行内のコンプライアンスをゆがめる結果につながったことは想像に難くない。しかし、目を凝らしてみると、日本中の地銀や第二地銀には、まだスルガ銀行のような一族が支配する金融機関が少なくないのだ。
「創業者ではありませんが、昭和の初期から祖父、父、息子と3代が頭取に就いている地銀があります」
そう指摘するのは金融庁担当の記者。高松に本拠地を置く香川県ナンバーワンの百十四銀行のことだという。現在の綾田裕次郎頭取(59)が3代目になる。
「1906年(明治39年)生まれの綾田整治さんが東大経済学部を卒業して入行。1952年から23年間も頭取を務め、その後、会長や名誉会長となり、最高権力者として君臨し続けました。彼の息子の修作氏は95年から9年間、頭取をやり、そのときは戦後初の赤字を出し、経営責任を問われてもおかしくない状況もあった。それでも昨年、孫の裕次郎氏が頭取に就任できたわけです」(同)
綾田家は香川県有数の名家として知られており、過去には、宅配便業者を装った中国人の男が、金を奪おうと、玄関で当時専務だった修作氏の妻にナイフで切りつける殺人未遂事件が起きたこともある。
直系の血族で3代頭取が続いている地方銀行はもう一つある。1950年から今年に至るまで、直系の3人が頭取だった期間が通算で56年間を越える圧倒的な支配を誇っている一族だ。岐阜県の大垣共立銀行である。
(後略)