記事(一部抜粋):2018年8月号掲載

連 載

【平成考現学】小後遊二

異常が日常となる社会

 フィリピンのドゥテルテ大統領は麻薬に関与した市民を公平な裁判なしに処刑するという過激な公約を掲げて選出された。公約は実行され、2年で4000人以上が殺害されたが、それが理由で大統領を辞めさせようという動きは出ていない。国民はドゥテルテのやり方と能力に疑問を持っているが、少なくとも任期の2022年6月までは、「中国の属国になればいい」などととんでもない発言をするこの変人と大過なくつき合っていこうという姿勢のようだ。
 トルコでは三権を大統領の下に集約する新憲法が施行され、議院内閣制から実権型大統領制になり首相職も廃止された。エルドアンの思惑通りで、財務大臣に娘婿のアルバイラクを任用するなど軍と金を握ろうとする意図が見え見えだ。16年7月の(実際は演出ではなかったかと言われている)クーデターを理由に15万人の政府系機関の職員を解雇し、8万人を逮捕した。閉鎖されたメディアも180社にのぼる。これでは政府批判は恐ろしくてできない。トルコ国民はこの異常な手法を用いるエルドアンと23年6月までつき合う選択をしたのだ。
 異常という形容詞が一番当てはまるのがアメリカのトランプ大統領だ。16年の選挙期間中は「成功したビジネスマン」という触れ込みだったが、実際にはいくつもの事業に失敗し、最後はリアリティショウのプロデューサー兼司会者、名前貸しの不動産屋というのが実態だった。そのリアリティショウのプロデューサーとしての手腕が、大統領になるときも、なってからも、遺憾なく発揮されている。番組の前半をサスペンス状態にし、後半でスーパーマンが現れて解決、というワンパターンのシナリオだ。
 まず前任者の全ての功績、足跡を否定する。NAFTA、TPP、WTO、気候変動条約、NATOなど全てが「アメリカ第一」になっていないと煽り立てる。メンバー国が慌てふためくのを視聴率につなげ、最後は昔とあまり変わらない落としどころにもっていく。TPPのように壊したままにして、対中国のように2国間で意味不明の戦争を仕掛け、結局国民が迷惑するというところで、今度は自分が解決者の側に回る。
 プロデューサーは自分で、自由にシナリオを書けるので、反応を見ながらどちらにも転がりうる。シンガポールでは歴史上初めて北朝鮮のトップと握手し、「非核化の重要なステップを開始した」と宣言した。うまく行かなければ「You are fired!」となる。
(中略)
 こうした「異常が日常となる」シーンは、実は我が国でも全く同じような集団心理に支えられて進行している。
(後略)

 

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