「ベルリンの壁」崩壊から来年で30年。第54代アメリカ合衆国大統領ドナルド・J・トランプと第3代朝鮮民主主義人民共和国最高指導者・金正恩。「意識高い系」から「独裁者」と断じられる両人は、豈図らんや、21世紀の「ペレストロイカ」を敢行中です。
赤い貴族=ノーメンクラトゥーラと呼ばれた旧ソビエト社会主義共和国連邦のエリート層や支配層。ソ連邦最後の指導者だったミハイル・ゴルバチョフは、汚職と腐敗に塗れた体制を刷新すべく「ペレストロイカ」を行います。ロシア語でペレは再び、ストロイカは構築。その流れは冷戦という「イデオロギー」対立を溶解させ、富める者が富めば、貧しき物にも富は浸透すると唱えたレーガノミクス=トリクルダウン理論の新自由主義を産み出しました。が、爾来30年。株主資本主義という妖怪は、自動温度調節装置に制度疲労を来し、分断化社会へと変容。
一つひとつはトリッキーなディールに思えるドナルド・メソッドも全体を俯瞰してみたなら、巨大な製薬会社・金融機関・軍需産業の意を汲むロビイスト達が巣くうワシントンの既得権益を溶解していく営為。であればこそ、本音・建前を巧みに使い分けてきた「意識高い系」に属する表現者は危機感を感じ、反発するのです。
ラストベルトの労働者に留まらず、延いてはバーニー・サンダースでなくヒラリー・クリントンなテイストを漂わせる民主党を現在も支持する「失われた中産階級」にも新たなチャンスを齎すかも知れぬ彼は、自分と同じ匂いを“3代目”にも嗅ぎ取り、シンガポール首脳会談に臨みました。
極秘訪朝したマイク・ポンペオ中央情報局長官が国務長官に就任する直前の4月20日に、経済建設&核開発「並進路線」の終了を朝鮮労働党中央委員会総会で決定。5月17日には同党中央軍事委員会拡大会議で、軍総政治局長・参謀総長・人民武力相の朝鮮人民軍3要職を、僅か1ヶ月で若返り再交代させています。然しもの習近平国家主席も人民解放軍の掌握に時間を要したように、洋の東西を問わず、軍部は人員も予算も既得権益の最たる存在。況んや人口2500万人にも拘らず中国・米国・インドに次いで世界4位の兵力を擁する北朝鮮に於いてをや。その構造大転換を図る3代目です
中国の6倍もの埋蔵量のレアアース、軍需産業に必須なタングステンとウランも世界の半分が眠る北朝鮮の地下資源開発への投資を企む鉱山企業の御曹司を通じて、娘イヴァンカの夫ジャレド・クシュナー上級顧問が北朝鮮側と接触したのも6.12会談実現の切っ掛けでした。フィナンシャル・タイムズ、ニューヨーク・タイムズ両紙のスクープです。
「やっぱ、止め〜た」とドナルドが牽制した5月24日、3代目が滞在していたのは万景峰号の母港でもある日本海側の元山市。五輪直前の今年1月に南北合同練習が行われた馬息嶺スキー場も、現在ゴルフ場も含めて開発中の葛麻海岸リゾートも、同市に位置します。「明るい北朝鮮」と呼ばれる李一族の開発独裁国家シンガポール滞在中、ドナルドの盟友でラスベガス・サンズ会長シェルドン・アデルソンが保有するマリーナベイ・サンズへと“カジノ視察”に赴いたのも宜なる哉。
而して朝鮮語に加えて英独仏露語を解する3代目は、地下資源外交をテコに観光立国として、更には中ロ韓と国境を接する地政学的観点からも敢えて南北統一を急がず、留学先のスイスと同じく東アジアの永世中立国的緩衝帯な存在として主導権を発揮する「小春日和のスイス」こそドナルドにとっても中ロ韓にとっても好都合、と踏んでいるのでは。地球儀「傍観」外交ニッポンの試練です。