記事(一部抜粋):2018年5月号掲載

経 済

二進も三進も行かぬ「出口戦略」

【情報源】

 黒田東彦日銀総裁が再任されて異次元緩和は第2ステージに突入したが、想定外の政治・経済リスクによって早くも政府・日銀は袋小路に入り込んでしまった。
 市場や金融機関への悪影響や常軌を逸した財政規律の緩みなど金融緩和の長期化による副作用は膨らむ一方だが、米国の保護政策に端を発した円高・株安への反転、さらには森友・加計問題など前代未聞の不祥事の連鎖によって後ろ盾である安倍晋三首相の求心力も大きく揺らいでいる。永田町では安倍内閣の総辞職さえ取り沙汰され始めたが、安倍3選が危うくなれば緩和の出口を封じ込める圧力が増す。安倍退陣となれば、アベノミクスの修正や緩和政策転換の可能性が浮上してくる。ただでさえ激痛が伴う出口戦略が一向に見い出せないなか、政局に振り回されて迷走した挙げ句、歪な形で出口戦略に突入すれば、それこそ日本経済は大混乱に陥る。
 本来であれば異次元緩和の出口戦略は景気の拡大が続き、企業業績も好調なうちに金融の正常化に着手すべきものである。2019年以降は米国、欧州景気のリセッション入りの可能性が指摘され、わが国も東京五輪特需の一巡や消費増税の反動減が加わって景気が減速、とても利上げできる状況ではなくなる。
 すでに出口戦略を進めている欧米は利下げで景気対策を打てるが、日本だけが緩和余地がなく、経済対策のカードを失った結果、強引な追加緩和に踏み切って市場の混乱や企業業績の悪化を招きかねない。再び緩和できる余地を残しておくためにも出口戦略の先送りは許されないのである。
 そもそも、異次元緩和の出口にはいくつもの壁が立ち塞がる。今年2月の世界的な株価暴落は米国景気が長くは続かないとのシグナルであり、これまで低インフレと低金利が支えてきた「適温経済」や世界景気がいずれフェードアウトすることを示している。市場の反応も大きなネックとなる。今年初めに日銀が国債の買いオペを減額しただけですぐさま円高に振れたように、出口戦略の素振りをみせれば急激な円高が進む。膨れ上がった国債価格も下落、唯一の拠り所である円安が崩れ、アベノミクスそのものが瓦解しかねない。
 そして最大の難関が安倍政権である。円安による大手企業の業績嵩上げや株価上昇、さらには財政拡大を進めたい安倍政権は、出口戦略はできるだけ先送りしたい。物価目標2%や金融緩和の継続にこれだけ固執するのも、何としても円高を阻止して円安を維持するためなのだ。
(後略) 

 

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