記事(一部抜粋):2017年12月号掲載

社会・文化

UE前会長が着せられた濡れ衣

かつての盟友がFBIを動かして……

 昨日の友は今日の敵──。
 たとえ2000億円の個人資産を持っていたとしても、自由にできないのが時の流れと友情である。
 今年1年を振り返れば、他の誰より、この言葉を強く噛み締めたのは、6月末の株主総会で突如、「ユニバーサルエンタテインメント」(東証ジャスダック・以下UE社)の会長を追われた創業者の岡田和生氏(75)だったのではないか。もっともこの追放劇で主要な役割を果たしたのは、岡田前会長による20億円の流用疑惑を指摘したUE社の現経営陣だけでなく、彼の長男や長女まで一役買っていたのだから、会社でも家庭でもあまりに独裁的だった結果で、つまり身から出た錆である。
 しかし、この数年間、追放劇に勝るとも劣らない衝撃を岡田前会長に与え続けた親友の裏切りが、ついにその全貌を明らかにしつつあるという。裏切り者は、かつて蜜月の期間を過ごしたラスベガスの帝王と呼ばれるスティーブ・ウィン氏(75)である。
 岡田前会長が率いていたUE社と、スティーブ・ウィン氏率いる「ウィン・リゾーツ」社は、この5年間、米ネバダ州で民事訴訟を争ってきた。実は、その裁判の過程で、ウィン氏が、過去に岡田前会長に濡れ衣を着せ、さらにFBIまで動かして彼を追い詰めようとしていた疑いが濃厚になったのだ。
 UE社に詳しい経済部記者が、その背景を解説する。
「岡田さんとスティーブ・ウィン氏は、2000年ごろにラスベガスで知りあって意気投合し、ウィン氏が手がけていた豪華なカジノホテルに、岡田さんが巨額の共同出資をすることでビジネスのパートナーとなります。ところが、ホテルがオープンした05年以降、徐々に二人の関係は悪化。ホテルを運営するウィン・リゾーツ社の株は、岡田さんの会社だったアルゼUSA社が20%弱、ウィン氏側も20%を持っていたのですが、12年、ウィン氏が主導する形で、アルゼUSAの持つ株を強制償還する決定をします。これは、時価2500億円の株式を70%の値段で強制的にウィン氏側が買い取るという意味。ウィン氏は、岡田さんがフィリピンでカジノを開業するために違法な接待を繰り返したという疑惑をその理由にしました」
 ご記憶の方もいるかもしれないが、この件は、日本でも報じられたことがある。12年12月30日の朝日新聞は、『比カジノ進出で高官接待
遊技機大手、計900万円 米に子会社、FBI捜査』という記事を掲載した。
《UE社による接待は、同社と現在は敵対関係にある世界的なカジノ経営会社ウィン・リゾーツ社(本社・米ネバダ州)が今年2月に公表した調査報告書で発覚。朝日新聞はこの調査報告書をもとに日米比の関係者にあたり、裏付け取材を進めた。報告書によると、米国に子会社があるUE社側による接待は、外国公務員への金銭の提供や高価な物品の提供を禁じた米国の海外腐敗行為防止法(FCPA)に違反する可能性が高いという。この接待などについては、米国連邦捜査局(FBI)も捜査を始めたとみられ、複数の関係者がFBIから事情を聴かれたことを朝日新聞の取材に認めた……》
 記事のポイントは、朝日の最大の情報源がウィン・リゾーツ社の報告書であることだが、もう一つ、「FBIも捜査を始めたとみられ、複数の関係者がFBIから事情を聴かれたことを朝日新聞の取材に認めた」という記述によって、UE社の疑惑が極めて重大なものであることが読者に強く印象づけられたことだ。その結果、岡田前会長のイメージは、泣く子も黙るFBIの標的にされるほどの大悪人となった。しかし朝日は、その後、関連する5本の記事がUE社から名誉毀損で訴えられ、一部の裏づけ取材が不十分だったとして33万円の賠償を命じられている。
「ところが」
 と、前出の経済部記者が続ける。
「今では、FBIの捜査……という部分も、ウィン氏側の仕掛けだったことがほぼ明らかです。というのも、ウィン氏側の代理人として、岡田さんの疑惑を報告書にまとめた弁護士は、1993年から2001年まで8年間もFBI長官を務めた大物で、FBIが動いたのも、元長官の影響力があったからです。しかし、結局のところFBIは事件を立件せず、大山鳴動してネズミ一匹にもならなかった。つまり、ウィン氏が、岡田さんの保有する株を取り上げるために疑惑をでっち上げさせたようにも受け取れるのです」
 そもそも、ウィンが岡田前会長の株を取り上げようとした理由は、ウィン氏の離婚だという。慰謝料としてウィン・リゾーツの株の半分を前妻に渡してしまったためと見られている。ずいぶん自分勝手な話なのだが、商売上の邪魔になれば、濡れ衣も平気で着せるということか。
 しかしこの二人、もともとは互いを刎頚の友と認め合っていたのである。03年に岡田和生・スティーブ・ウィンの共著として出版された『ラスベガス
カジノホテル 最も新しい挑戦』には対談が収録され、固い絆や麗しい信頼が繰り返し綴られている
(後略)

 

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