記事(一部抜粋):2017年11月号掲載

経 済

合併の鍵は出光美術館にあり

公益財団法人の私物化は許されるのか……

(前略)
 石油元売大手の出光興産が発表した昭和シェルとの経営統合計画に、創業家が反対を表明したのは2015年の暮れだから、まもなく2年である。反対の理由は大株主である創業家の影響力が低下することだと見られるが、以来、両者はあらゆる局面でぶつかり、対立を深めてきた。
 経済記者が争いの経過を振り返る。
「まず第一に、企業の合併には株主総会で3分の2以上の賛成が必要です。しかし、創業家側は約34%の株を保有していました。その内訳は、当主の昭介さんと長男、次男の3人で約4%、さらに創業家の資産管理会社、日章興産が約17%。加えて、昭介さんやその息子が理事を務める2つの公益財団法人、つまり出光美術館と出光文化福祉財団が合わせて約13%です。これではいくら経営側が頑張っても、創業家が反対する限り3分の2を獲得することはできません。そこで、経営側が創業家の保有率を下げようと、1200億円の公募増資を仕掛けたのが今年7月。創業家は差止請求を起こし、法廷に持ち込みましたが……」
 結果は御存知の通り、創業家の負けである。経営側の目論見通り増資がおこなわれた結果、創業家側の保有する株は約26%に希釈されたのだ。これで創業家側の一存だけでは合併を妨げられなくなったわけだが、かといって、経営側が一気呵成に合併に突き進める状況にはいまだ達していないという。
 出光のさる幹部が言う。
「うちの場合、去年も今年も株主総会で議決権を行使した株主はだいたい9割でした。合併を議題にした臨時株主総会を開いた場合でも、おそらく同じ程度でしょう。そうなると、創業家側の保有株は26%ではなく、29%に膨らませて評価しなければなりません。つまり創業家以外に5%の株主が反対票を投じただけで、我々は3分の2を越えられず、合併できなくなってしまう危険性があるのです。今年の株主総会でも、創業家に同調して、取締役選任に反対した株主が5%いた。とてもじゃないが、合併を決める臨時株主総会を開くことなどできません」
 一見、有利に戦いを進めている経営側も切り札を手にしているわけではないわけだ。一方で、差止請求に敗れた創業家側にも新たな策のある様子はない。
 ただ、何としても合併というゴールにたどり着かねばならない経営側に対し、このままの状況を保てばよい創業家には、26%の株を頑強な盾にする籠城戦のような戦いやすさはある。
「しかし、盤石だと思っていた城の壁に大きな穴が見つかった……という見方がここにきて出てきたのです」
 そう解説するのは、先の経済記者だ。
「それが、出光美術館と出光福祉財団という2つの財団法人の問題。この2つが大株主であることは先ほど説明しましたが、そもそも財団という公的な性格を有する法人が、上場企業の将来を左右するような重大な判断に際し、一方の意見だけに肩入れすることが許されるのかという疑問が広がってきたのです。というのも、公益法人の事業は法人税が非課税。さらに、個人や法人が寄付をした場合にも優遇制度がある。それゆえ特定の者に利益を与えることは禁じられています。しかし出光美術館は、理事長である出光昭介理事長の一族の思うように株の議決権を行使して、これまで合併を阻止してきました。これはまさしく創業家による財団の私物化に当たるのではないかという当然の疑問が生じているのです」
(後略)

 

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