記事(一部抜粋):2017年10月号掲載

連 載

【田中康夫の新ニッポン論】

自己都合解散⇒高転び総選挙

「新しい内閣は、結果本位の『仕事人内閣』。信頼回復に向け、一つひとつの政策課題に結果を出す努力を重ねていきます」。8月3日の組閣から1ヶ月半、出した成果は「解散」の二文字。
「首相 北朝鮮情勢の緊迫化で方針転換」。9月17日付「産経新聞」が1面で決め打ちした翌日の敬老の日、堀潤氏がMCの「モーニングCROSS」で、「攻めるか逃げるか 問われる解散の気概」とフリップに記しました。
「解散について一々お答えすることは差し控えさせて頂きたい」。安倍晋三首相が羽田空港で言い置き、政府専用機に搭乗したのを番組終了後に知り、「闘う解散か弄ぶ解散かを人々は鋭く見抜く」とツイート。講道館創設者・嘉納治五郎氏の警句「人に勝つより自分に勝て」も併せて載録しました。
「郵政民営化よりもっと大事なことがあると言う人がたくさんいる。しかし、郵政事業を民営化できないでどんな大改革ができるんですか。公務員でなければ公共的なサービスは維持できない、それこそまさに官尊民卑の思想。民間人に失礼だ」。深紅の緞帳の前で語った宰相・小泉純一郎は、国民を“熱病”へと誘いました。
 任侠の世界に留まらず、まなじりを決し、しのぎを削る気迫に、人々は魅了されがちです。その行為の是非を問わず……。況んや24日発表「共同通信」調査で67.3%に達した支持政党なきフワッとした「無党派層」に於いてをや。したり顔で護送船団・記者クラブが語る「解散の大義」云々は然して関係ないのです。
 他方で、内閣改造を含む新政権発足後、所信表明も代表質問も行わずに解散した「前例」は敗戦後72年間、存在しません。
「嘗てなく重大で眼前に差し迫った脅威。必要なのは対話でなく圧力と行動だ」と第72回国連総会で高言した舌の根も乾かぬ内に、北朝鮮非難決議は疎か、国事行為として国会召集する天皇が臨席の開会式すら中止を断行。「不敬罪政権」との誹りもものかわ、今上天皇が御名御璽を押した解散詔書の朗読のみで“三十六計逃げるに如かず”な「前例」なき「自己都合解散」を図りました。
 が、好事魔多し。国家安全保障会議NSCの司令塔たる首相、官房長官、外相、防衛相の4名は、一旦緩急あれば30分以内に官邸へ駆け付けよと規定。然りとて、与党党首たる宰相が遊説にも出掛けず、官邸と公邸に“籠城”し続ける「前例」なき12日間の選挙戦を敢行する訳にもいきますまい。
「この時期の衆院解散に反対64.3%、賛成23.7%。森友・加計学園問題を巡る政府の説明に納得できない78.8%、納得できる13.8%」(共同通信)。秋葉原の「こんな人たち」の範囲を大きく超えた不信感の数値です。偶然にも街頭演説に遭遇して足を止めた、ウルトラ無党派な「あんな人たち」や「そんな人たち」も「違うだろ!」と自然発生的に唱和し始める蓋然性は極めて高いのです。
 何を仰るウサギさん。何れの野党も支持率一桁台。結果は明々白
々と冷笑する向きも居られましょう。成る程。が、今年6月の英国総選挙、昨年4月の韓国総選挙。テリーザ・メイ率いる保守党、朴槿恵率いるセヌリ党、その何れも過半数を割り込み、前者はハング・パーラメントに、第一党の座も失った後者は奈落の底へ。共に世論調査では圧勝と報じられていたにも拘らず……。
「必要なのは、行動です。対話でなく圧力、でもなく、実は逃走という行動こそ」。前例なき「高笑い総選挙」となるか、想定外の「高転び総選挙」となるか、更には、最後まで翻意を促した菅義偉官房長官の諫言が、覆水盆に返らぬ“苦い良薬”となるか否か、全ては10月22日の投開票日に判明します。

 

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