記事(一部抜粋):2017年8月号掲載

連 載

【流言流行への一撃】西部邁

核武装を論じるべきは今

 小生の体調が思わしくないので、当編集部と読者に長いあいだお世話を受けたことに感謝しつつ、今回をもって最後とさせて頂く。
 最後の話題として適切かどうか定かではないが、核武装論の在り方について言及しておきたい。というのも日米韓の首脳会談が次々と催されており、その主題はいうまでもなく北朝鮮の核武装にたいする対応策だからである。
 北朝鮮の核実験報道があると皆して顔をしかめるのが習わしとなっている。しかし核武装国は旧連合国の米英仏露中だけでなく、インド、パキスタンそしてイスラエルに及んでいる。さらにウクライナにもロシアの残した核兵器があるのではないかとすら噂されている。そんな世界情勢の中で、どうして北朝鮮の核武装のことだけが犯罪視されなければならないのか。しかも北朝鮮はとうにNPT(核不拡散条約)を脱退しているのみならず、「核兵器は先制攻撃には用いない」との声明を発表してもいる。広く知らされてはいないことだが、NPTの第8条には「周辺事情によっては条約脱退も可」と規定されているのである。米中露の核武装諸国に囲まれた北朝鮮がNPTを脱退したことそれ自体については至極当然といってよい。
 しかもNPTには「既存の核保有国は核軍縮に努めなければならない」との付帯条件がついていた。だが、その条件はほとんど無視されたままである。たとえばオバマ政権は核兵器の性能強化のために核支出を30%も増大させている始末ときている。北朝鮮の核武装を不可とみなすには「北朝鮮は侵略的な国家である」との前提がなければならない。侵略的な国家が核武装をすれば、それは国際社会にとって由々しき事態なのでNPTから脱退していようがいまいが、国際社会はそれを封じ込めるほかないのである。たとえ北朝鮮が先制攻撃には使用しないと宣言していても、侵略的な国家の宣言などは信用するにたらないとみなさざるをえない。
 北朝鮮はどういう理由で侵略的国家とされてきたのか。いうまでもないことだが、「他国民の拉致、贋ドル札の製造、麻薬の密売買、大韓航空機爆破」などの証拠がたくさんあるからである。
 しかしそういうことならば、いわゆる6カ国協議でなぜ「北朝鮮核武装問題と日本人拉致問題との分離」がおこなわれたのか訳が分からなくなる。拉致問題は北朝鮮の侵略性を表わす最も確かな証拠の一つである。その証拠の故に北朝鮮の核武装を禁止せねばならぬ、と理屈立てるのでなければとても国際法の論理に合わない。それのみならず、北朝鮮への徹底した経済制裁は一種の宣戦布告とみなされて致し方ない。実際に北朝鮮はそれを宣戦布告だと位置づけている。しかも日朝のあいだにはまだ平和条約が締結されていないのであるから、形式の上では、日本と北朝鮮の戦争状態は継続中とみることもできるのである。
 こうした論点を整理しないままに北朝鮮の核武装それ自体を日本人が批難するのはどうしてか。それは日本人に核武装する気構えがゼロだからではないのか。トランプ大統領が(選挙運動中に)「日本は核武装でもして自力で北朝鮮に対処せよ」といってくれたのだから、「では核武装論議をさっそく始めよう」となって当然なのに、この列島にその気配は微塵もみられないときている。
(後略)

 

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