記事(一部抜粋):2017年7月号掲載

社会・文化

「柏崎刈羽」安全対策の見えないゴール

このままでは「エネルギーミックス」も絵に描いた餅

 つまるところ、国家百年の大計である「エネルギー・ミックス」はどうあるべきなのか──。そろそろ「福島ショック」の思考停止から目覚め、何らかの決断を下すべき時期に差し掛かっているのは間違いあるまい。原発推進か、脱原発か、いずれの最終結論を得るにせよ、資源に乏しい国を存続させていくためには、風評に視界を阻まれたモラトリアムの森を抜け、新たな地平線を見出すしか方策はないからである。
 6月21日、原子力規制委員会の田中俊一委員長(72)が、東京電力の柏崎刈羽原発(新潟県)の現地視察をおこなう考えを示したことは、原発に関する思考停止の泉に一石を投じる結果につながるかもしれない。
(中略)
 東電関係者がこう胸の内を語る。
「再稼動に関しては、安全基準を完全にクリアするのはもちろん、世論にも配慮したうえで判断されるべきと思っています。しかし、そろそろ再稼動を許してもらいたいというのが企業としての本音。柏崎刈羽の最新型だった6号機と7号機を動かすことができれば、1基につき135万キロWの発電が可能で、火力発電所の燃料代を1日あたり3億円以上、節約できるのです。1カ月で100億円。仮に2基を動かすことが可能なら毎月200億円分の燃料費が浮く。福島第一原発の廃炉費用がかさんでいくなか、これは助かります」
 確かに1年間に換算すれば、約2000億円が節約できる計算となる。財務諸表に与えるプラスの影響は小さくない。
 さらに、東電関係者は「柏崎刈羽原発の安全性に関しては、要求されるハードルを軽々と越えるレベルで徹底的に高めてきた」と胸を張るのだ。事故のあった2011年以降、飛躍的に厳しくなった安全基準だが、柏崎刈羽原発の安全対策は、少なくともいくつかのカテゴリーで、新基準さえ遥かに上回るレベルに達しているという。
 例えば、福島第一の電源喪失に至らしめた津波への対策として、柏崎刈羽原発は、日本海側に高さ15mに達する巨大な防潮堤を築いて、原子炉建屋群を完全に防御している。完成は13年5月。つまり、東日本大震災の2年後、今から4年も前に津波対策はほぼ終了していたわけだ。
 柏崎刈羽原発ではさらに、原子炉建屋も防潮壁と防潮板で完全に覆い、水も漏らさぬ構えをとった。それでも万が一、建屋内に海水が浸入した際の対応として、非常電源や炉心冷却装置のあるエリアを、潜水艦で使用されているような水密扉で完全に密閉できるように改造している。
「驚かれるかもしれませんが、実は、巨大防潮堤の高さが15mに設定されたことに科学的根拠はありません。そもそも日本海で発生する最大級の津波であっても、その高さは6・8m程度と考えられてきました。しかし、太平洋側では話が違い、実際に福島を襲った津波は13mでした。そのため、日本海側では想定できない高さではあるものの、13mの津波に耐えられる15mの高さの防潮堤を築くことを経営判断したのです」(同)
 安全対策が合理的な範囲を少々超えてしまっているように見えるのは防潮堤ばかりではない。例えばここから先の安全対策が想定する危機は、極めてレアなケースと言っても構わないだろう。
 まず巨大地震が起きて、原子炉が非常停止し、送受電設備である鉄塔が壊滅して、外部電源を喪失してしまったと考えてもらいたい。さらに非常電源が起動したところで、日本海ではありえない高さの津波が発生して15mの防潮堤を乗り越え、防潮板や水密扉に守られている建屋がなぜか水浸しになってしまい、電源を喪失してしまったとしたら……。
 柏崎刈羽原発は、こんな万万が一の事態に備えて、建屋の高所に予備の直流電源を増設してあるという。しかも、この予備電源がなぜか使用できなくなる万万万が一の事態には、空冷式ガスタービン発電機車が用意されている。この発電機車は高台にあり、その足元の地下に軽油タンクが埋設され、いつでも給油しながら発電して各号機へ電気を供給できるのだ。さらにこの発電機車のバックアップとして、発電所構内の高所には、どこにでも動ける電源車25台が準備万端で待機している。
 それでも仮に、この電源車が全て壊滅したと仮定しよう。何から何まで電源を失った際には、原子炉に注水するため、蒸気で動くポンプが設置されている。さらにこのポンプすら壊れたときのために、原子炉に直接注水するための消防車42台が分散配備されている。
 傍目から見る限り、電源確保や炉心冷却に関して、安全対策はすでに屋上屋を重ねつくし、やや偏執的な状況に陥っているかのようにも映るのだ。
「それでも炉心が損傷したという想定の下、格納機内の水蒸気を排気するフィルタベント設備を地上と地下の2カ所に設置。ほかにも、航空機衝突による火災を泡で消化できる大容量放水設備まで作ってあります」(東電関係者)
 そんなこんなの結果、2011年以降、柏崎刈羽原発の安全対策に費やされた総工費はざっと6000億円に達した。
(後略)

 

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