記事(一部抜粋):2017年7月号掲載

政 治

内閣府に正された歪んだ文科省行政

【霞が関コンフィデンシャル】

(前略)
 あまり問題にされていないようだが、実は天下りと、規制による既得権益擁護は、密接な関係にある。文科省が学部新設に消極的なのは、それが許認可権の権威を高めることにつながり、天下りのしやすさへとつながっているからだ。岩盤規制によって、天下りを受け入れざるを得なくするのは、役人の常套手段で、天下り斡旋と新規参入阻止と整合するのである。
 天下りについて「それほど悪くない」という人もいる。役人のなかにも「同僚を助けて何が悪い」と思っている人は多い。しかし、斡旋されて天下った人はいいかしれないが、その反面、天下り先では、実力がありながら不条理にも就職できなかった人や昇進が遅れた人が必ずいるはずだ。そうした人の無念には思い及ばないのだろう。
 はっきりいえば、身内の役人に甘くすることで、それ以外の人の雇用を奪っている。天下りの背景にある大学への許認可や大学への交付金などの補助金を、文科官僚は私物化しているということだ。天下りに理解を示す人は、そのことに気がつかないのだろう。
「加計学園理事の内閣参与、前次官と接触」(朝日新聞)と報じる記事もあった。官邸が前川氏に圧力をかけたというのだが、その加計学園理事は文科省からの天下りである。天下りした元官僚と現役の事務次官が会うのはよくある光景だし、その際に新学部が話題になるのは当然である。だからこのケースは、むしろ「文科省の許認可が天下りを招いた深刻な例」ととらえるべきだろう。
 改めて加計学園問題の経緯をまとめておこう。
 そもそもこの問題の端緒は、文科省が獣医学部の新設を52年間も認めてこなかったことにある。
 一方、加計学園は以前から獣医学部の新設を希望していた。小泉政権での構造改革特区でも要望している。つまり加計学園は20年近くも要望を続けてきたわけだ。
 加計学園の理事長が安倍首相の腹心の友だから今回、獣医学部の新設を認められたとするなら、第一次安倍政権のときに認められていても不思議でなかった。当時は獣医学会などが強烈に反対し、麻生氏も反対だったので、実現できなかった。
 民主党政権時代になってかなり進んだ印象がある。そして、再び安倍政権になって、アベノミクスの第三の矢として規制改革があげられ、獣医学部と医学部は「岩盤規制」として槍玉にあがった。
 規制緩和反対の公的根拠は、文科省告示「大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準」で、これが新設の要望を事実上門前払いしていた。
 法律上の認可規定がありながら、それを「告示」によって根っこから否定するなど本来はあり得ない。20〜30年も昔の議論だ。需給関係が理由というが、あまりにも時代錯誤だ。
 小泉政権のときに、需給条件を要件とする参入規制は、各省の業法で原則認められなくなった。需要見通しを役人が作るのは無理があるし、外れた場合、供給過多では供給者、供給過小では需要者のそれぞれの利益が損なわれるので、自由な競争に任せたほうがいいとなったのである。
 この告示については15年6月8日の国家戦略特区ワーキンググループで議論された。即時廃止でも不思議ではなかったが、その後の文科省と内閣府の折衝によって、15年6月30日に閣議決定が作られた。
 そこには「年度内に検討すること」と書かれている。つまり、文科省は16年3月までに獣医師の需要見通しを作らなければ内閣府との戦いに負けるということだ。
 文科省から泣きが入ったのだろう。期限が延長され、16年9月16日の国家戦略特区ワーキンググループで、文科省と内閣府は議論を戦わせた。そこで文科省は完敗し、万事窮したのである。
 教育関係者のなかには文科省の上から目線の行政スタイルに困惑している人が少なくない。許認可や予算の報復をおそれて口にしないだけだ。その上から目線で、文科官僚は内閣府と交渉したが、やはり負けてしまったのだ。
 閣議決定で決まった期限さえ守れなかった文科省と内閣府との議論を野球に喩えれば、10対0、文科省の5回コールド負けである。
 その後で、いま問題になっている文書が、文科省内で作られたわけだ。
 特区ワーキンググループの議事録は文科省と内閣府の合意の上で公表されている。課長レベルの事務方の議論で文科省は完敗したにもかかわらず、例の文書では「総理のご意向」となっている。これは事務折衝で完敗したことを、役所の幹部に報告する際に口実とし持ち出したものではないかと考えられる。でっち上げた可能性すらある。前川氏は、「総理の意向」という文書を、官邸の圧力ではなく「戦に負けた部下の口実」ととらえるべきだった。
(後略)

 

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