記事(一部抜粋):2017年6月号掲載

社会・文化

中吊り盗み見「文春」が謝らないワケ

“次期社長”にも責任が及びかねない

「攻撃は最大の防御」の喩え通り、しばしばパンチ力に自信のあるボクサーは、ディフェンスに大きな欠点を抱えているという。結果、猛攻を浴びせ優位に立ちながらガードの穴を衝かれ、窮鼠猫を噛むのカウンターに斃れてしまうことがある。だが、これはなにも格闘技やスポーツの試合に限った話ではない。強力な営業チームに率いられ、コンプライアンスやロジスティックが二の次となっている企業しかり、スクープを連発し、世間を騒がせてきた『週刊文春』しかりである。
 先月『週刊新潮』の中吊りポスターを週刊文春が長年、盗み見していたという疑惑が生じたことは、新聞、テレビでも多く報じられたため、ご存知の方もいるに違いない。週刊新潮は、文芸春秋社の営業担当社員が、コンビニで週刊新潮の中吊りをコピーしている写真を撮影し、2週にわたり『「文春砲」汚れた銃弾』と批判記事を掲載した。
 事実であれば、刑法上の不法行為にあたるかどうかはともかく、少なくとも企業倫理を問われるのは間違いなく、週刊文春の編集長や担当役員、場合によっては社長にまで責任が及びかねない一大スキャンダルである。
 ところが文芸春秋社側は、週刊新潮の指摘に対し通り一遍の対応に終始した。例えば、週刊文春の新谷学編集長がインターネットに発表した声明文は、《「週刊文春」が情報を不正に、あるいは不法に入手したり、それをもって記事を書き換えたり、盗用したりしたなどの事実は一切ありません(後略)》と、何も言っていないに等しい無内容な否定だった。当然、釈明すべき不正コピーの写真への言及やスクープ潰しと批判される記事の書き換えをしたのかしなかったのか、一切、具体的な反論をおこなっていない。ふだんは疑惑の主に舌鋒鋭く飛びかかる週刊文春が、自らの疑惑に対しては、公平さやメディアの矜持を全く感じさせない対応しか取れなかったわけだ。
 文芸春秋社の社員が自虐的にこう語る。
「細かいところに関しては我が社にも言い分はあるにせよ、週刊新潮が指摘した事実関係は概ね正しい。週刊文春編集部には、まだ記事を書きなおせる火曜日の午後4時ごろ、週刊新潮の中吊りコピーが届いており、編集長やデスクなどの幹部がそれを見ていました。当然、自分たちが新潮と比べて出遅れていると思われる記事があれば、追いつこうとするでしょうし、実際に追いつけたことがあるわけです。これが倫理的に恥ずかしい行為であるのは間違いないけれど、厳密に法律的に見ると違法かどうかは微妙で、刑法には触れないというのが社の見解になったようです。そのうえで、盗み見で記事を書き直したかどうかは、否定すれば水掛け論にできるので、ここを突っぱた結果、ああいう中身のないコメントになったわけです」
 倫理的には問題だと認識していながら、誰も責任を取らなければ、自浄作用に欠けていると批判を受けて当然だ。そうした批判を受けるリスクを犯して突っぱねた背景には、二つの理由があると見られている。文春関係者が続ける。
「一つ目は、我々に中吊りを見せてくれていた大手の取次店、トーハンへの配慮です。文春が不正を認めてしまうと、トーハンが不正に加担していたことになってしまいます」
 長年の協力者を守るという大義名分だが、二つ目は完全な社内事情である。 
「新潮の中吊りが火曜日に届くようになったのは、新谷さんが編集長に就任するよりも前からでした。そのため問題が発覚した当初から、新谷さんは、自分が始めたのではないと言い、部内でもそう繰り返しました。つまり、先代編集長や先々代編集長にも責任の一端があったというわけです」
 文芸春秋社にとって困ったことに、週刊文春の編集長は出世のラインであり、経験者はみな、それなりのポジションに就いている。例えば先々代の編集長は現在、ノンフィクション部門を担当する執行役員なのだが、さらにこんな事情も。
「実は、次期社長と目されている常務取締役の木俣正剛さんがこの中吊り問題に関わってしまったことがネックとなっているようです。というのは、2015年10月に、新谷編集長は春画掲載をめぐって社内処分を受け、年末までの3カ月間、休養に入っています。その間、編集長代行を務めたのが木俣さんでした。当然、その間も週刊新潮の中吊りは届いていたはずです。新谷編集長の責任を問うのなら、社内ナンバー2である木俣常務の責任も問わなければならない状況なのです」(同)
 よって新谷編集長に詰め腹を切らせるわけにもいかず、文芸春秋が全社的に口を噤んで頬かむりするしかないというわけだ。しかし一方で、煮え切らない処置に怒り心頭な文春社員も少なくないという。
(後略)

 

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