記事(一部抜粋):2017年4月号掲載

連 載

【田中康夫の新ニッポン論】

資源大国・北朝鮮

 我が家の娘が誘拐された儘なのに、その誘拐犯の息子の死去を延々と報じる日本の「メディア」って何なの?
 2月13日の金正男クアラルンプール国際空港殺害事件から半月後、僕はラジオ番組で慨歎しました。拉致被害者問題を抱える日本が蚊帳の外に置かれぬ為の具体的方策を論ずるべきなのに、連日連夜、ワイドショー的に報ずるだけだったのですから。
 その北朝鮮が3月6日、中距離弾道ミサイル「スカッドER」を4発同時に発射。3発が秋田県の男鹿半島沖300kmの排他的経済水域EEZに落下します。男鹿市では17日、国県市合同で避難訓練を実施。公民館や小学校まで半径100m以内の住民110人を対象に防災無線で避難を促し、「極めて意味があった」と内閣官房参事官は訓練後の会見で述べました。
 実は今回も日本周辺を航行する船舶へは13分後、飛行機へは29分後の情報伝達でした。スカッドERは約3分間で上空1200kmへ。射程1500kmの飛行時間が約6分。菅義偉官房長官は13日、「発射から10分以内に日本に到達する。事前通告もなく、その範囲内で国民に情報提供するのは不可能に近い」と正直に“告解”しています。
「複数ミサイルを同時発射可能な能力を示した」とジェームス・シリング国防総省ミサイル防衛局長はコメント。「過去20年間努力してきたが、北朝鮮の非核化は失敗。違うアプローチが必要。北朝鮮の抑止には中国が重要な役割を担っている」とレックス・ティラーソン国務長官も16日に東京で発言。
 19日には北京で「米中が衝突や対抗をせずに互いを尊重し、意思疎通と協力を強化し、相互利益の精神で関係を発展させたい」と述べると、習近平国家主席も「両国の共通の利益は意見の食い違いより大きい。協力こそ唯一の正しい選択」と呼応。翌20日には王毅外務大臣が「朝鮮半島情勢が衝突や戦争に至るのか、冷静になって外交的対話に立ち戻るのか、我々は岐路にある」と会見しました。
 何故か日本では余り報じられていませんが、北朝鮮は世界有数の地下資源保有国です。アメリカ資源探査衛星のデータに拠れば、軍需産業に必須なタングステン埋蔵量の半分が北朝鮮に。400万トンのウラン埋蔵量も、他の国々の埋蔵量合計と同規模。携帯電話から誘導ミサイルまで必須なレアアースも、中国の6倍近い埋蔵量。因みに現在、レアアースの世界供給量の9割を中国が独占し、価格決定権を握っています。
 金や鉄鉱石、亜鉛等も含めた地下資源の主要輸出先は中国、オランダ、インド、タイ。更には論より証拠、G7参加国の中で北朝鮮と国交を有さぬ国は、米仏日の3カ国のみです。
 金正恩体制の5年間で核実験3回、ミサイル発射30回以上も強行する北朝鮮に対し、優柔不断なバラク・オバマ政権と異なり直情径行のドナルド・トランプ政権はF22戦術戦闘機で核施設粉砕に踏み出す、と期待する向きが日本には少なくありません。が、そこには、ミサイル基地全滅後の朝鮮半島をどう制御するか、の冷徹な視点が欠落しています。
 であればこそ、米中のみならずロシアも、パリ政治学院で学んだ遺児の金漢率を“擁立”する迄の間、金正恩体制の暴発を防ぐべく「外交的対話に立ち戻る」しかないと判断しているのです。視野狭窄な「中国包囲網」の島国発想から超えられぬ日本とは真逆な「地球儀俯瞰外交」です。
 地下資源分配の実利を巡る各国の思惑の中で、拉致被害者問題が「包囲網」ならぬ“放置網”へと陥る悲劇を生まぬ為にも、冷静で冷徹な対話への参加が求められています。竹槍と防空頭巾の如き避難訓練にエネルギーを注ぐ前に。

 

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