記事(一部抜粋):2017年2月号掲載

連 載

【平成考現学】小後遊二

政治的産物としての偏見

 どこの国にも自国や他国に対する偏見がある。あるときは宗教が、あるときは人種がそれを加速し、抜き差しならない憎悪に発展する。
 多くの韓国人は「日本の植民地となり、戦後独立まもなく朝鮮戦争に引きずり込まれて工業化が遅れた。経済発展で日本の後塵を拝するのは日本のせい」と考えている。ほとんどの大統領が死か逮捕で終わる未熟な民主主義、政治、それを克服できない国民のせいだ、とは思っていない。うまくいかない理由は日本の植民地支配という短絡的な発想から「恨みの文化」を遺憾なく発揮して日韓関係はなかなか軌道に乗らない。
 中国政府は「7年間の抗日戦争に勝利して人民を欧米日から解放した」と言っていたが、最近では満州事変の発端となった柳条湖事件(1931年)から起算して「14年間の長きにわたって」と正式に言い直している。しかも大遠征(長征)などでの犠牲者まで勘定に入れていつの間にか「戦争による死者は3000万人」と言い始めた。日本人が殺したとは言わないながら、この3000万という数字を抗日戦争の犠牲者と十把一絡げにしている間に「残虐な日本人」というイメージが若い人にも伝承されていった。おまけに滑稽なぐらいに残虐非道な日本兵が出てくるの物語が毎晩のように深夜テレビで放映されている。訪日した中国人が「日本人は親切だ、民度が高い」と逆にショックを受けるケースが多発し、ネットなどではどちらが実態に近いのかという論争が起きている。しかし13億人に刷り込まれた偏見はそう簡単に消えない。共産党は中国全土を一つの国に統一した毛沢東の遺産で今の独裁制を正当化しようとしているので、チベット、新疆、内モンゴル、香港、台湾などを譲れない「核心的利益」と位置づけている。トランプが台湾問題で「一つの中国もディール次第」とけしかけたら、赤子の絶叫のごとく手がつけられない状況になっている。自国民を偏狭な神話で騙してきたことを棚に上げて武力も辞さない構えである。
 アメリカではトランプが「中国の不公平な為替操作などで雇用が失われた」とアジッたが、失業率は史上最低レベルだし経済が低迷しているわけではない。トランプが支持基盤として訴えかけたプアー・ホワイトはハイテクや金融などの国内競争に負けたのであり、中国に負けたわけではない。低い給料でもどうにか生活できているのは、安い人件費の中国などから商品が入ってきているからだ。トランプの言うように高い関税をかければ、一番困るのはプアー・ホワイトである。アメリカはかつて日本にも競争の条件がフェアではないといちゃもんをつけた。同じ条件で戦えば負けるわけがないという思い込みが「黄禍論」などの偏見を生んだ。今はそれが主として中国に向けられている。イギリスでBREXITが選択されたのも、移民・難民が職を奪っているというレトリックが決め手となった。しかし失業率は史上最低で、レストランの経営さえ人手不足で難しくなっている。高度社会に対応した人材の再教育をしてこなかったため、スキルの低い仕事の一部に外来者が就いているという現象を捉えて移民排斥という偏見に直行する。
 日本でも北方四島をソ連が不法占拠したとか、米軍はいいように沖縄の基地を使っていると考える人が多い。
(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】